甘い恋じゃなかった。
――何で気付かなかったんだろ。
帰り道も、頭の中はそのことでいっぱいだった。
よく考えてみたら、あんなにおいしいケーキが作れるなんて普通じゃない。
ケーキ作りに妙に熱かったのも、妙に詳しかったのも、プロのパティシエだと分かれば納得のいくことばかり。
“失業した。アイツのせいでな”
あの言葉は…どういう意味なんだろう。
桐原さんがケーキを好きで、ケーキ作りが好きなのは見てれば分かる。それをやめてしまうほどの何かがあったんだろうけど…。
「ほんと、知らないことばっかだなぁ…」
「何が?」
ふ、と隣を見ると牛奥が不思議そうな表情で私を窺っていた。
「あ、別に?なんでもない。
それよりもうここでいいよ。家すぐだし」
「よくねーよ、もう夜だし危ねぇだろうが」
夜っていってもまだ20時前だし、平日はいつもこのくらいの時間なんだけど…。
「あのさ」
そう言いかけたけど、それより先に牛奥が口を開いた。
「小鳥遊って、桐原さんのこと…好きなの?」
「…………は?」
何でそうなる!?