甘い恋じゃなかった。
「おい」
今日も桐原さんは言う。
「このにんじん、若干固い。火もっと通せよ」
今日は水曜日。ミルフィーユの、週一回の定休日だ。
というわけで珍しく夕飯を共にしているのだけれど、桐原さんは相変わらず口うるさい。
「そうですか~?私には別に普通ですけど」
「俺が固いっつってんだから固いんだよ。
ついでに味付けも濃すぎ」
と言いつつも私が作った野菜炒めをムシャムシャ食べている桐原さん。
そんなに言うなら食べなければいいのに。ていうか、
「じゃぁ桐原さんが作ればいいじゃないですか」
あんなにおいしいケーキを作れるくらいだから、料理だって私よりもうまい気がする。
「嫌だね」
だが桐原さんはキッパリそう言って問題のにんじんを口にいれた。パリ、と噛み砕く音がする。
「俺は料理しねーから」
「ケーキは作るのに?」
「それは仕事だからだ」
「あんなに楽しそうに作ってるくせに」
「…は?楽しい?」
桐原さんはワケが分からない、とでも言いたげな顔をして箸を置いた。
「俺はケーキ作りが楽しいなんて思ったこと一度もない」
そして仏頂面のままお茶を飲み、さっさと自室へ引き上げていく。
「何あれ、感じ悪」