甘い恋じゃなかった。





チラ、と1.5メートル離れた所にいる桐原さんの様子を伺うと、フ、とそんな私の疑問を心得たように彼は不気味な笑みを見せた。



「決まってんだろ」



彼が言う。




「俺がここに来た目的はただ一つ。
栞里の居場所を教えろ」




…やっぱり…。



桐原さんの気持ちはよく分かる。よく分かるけど




「…知りません」



「え?」



「知らないんです。お姉ちゃんが今どこで何をしているか。誰も」





結婚式当日、忽然と姿を消したお姉ちゃん。



その後、お母さんに“大変申し訳ない。自分のことは探さないで欲しい”という内容のメールが届いた。


それからも、母がメールを送れば何かしら応答はあるようだから、どこかで生きてはいる。だけど、決してその場所を明かそうとはしないのだ。




…もう、一生お姉ちゃんに会えることはないのかもしれない。




私は心のどこかで、そんなことを思っている。





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