すれ違い天使Lovers
VS八神玲司Part2

 目を覚ますと神社の境内が目に入り、自分がまだ生きていることを悟る。同時に身体には黒い制服が掛けられており、誰かに介抱されていることも理解できた。
 起き上がると、目線の先に青年が見てとれる。玲司と同い年くらいで、カッコイイというよりも可愛い感じの顔立ちをしており目が合うと青年は緊張しつつ話し掛けてくる。
「目が覚めたみたいだね。身体、大丈夫?」
 言われて確かめるまでもなく、魔域によるダメージで身体の自由はほとんど利かない。
(マズイな、全く動けない。これでは復讐どころじゃないぞ)
 今後の作戦を考えていると青年が右手を差し出してくる。
「天使の傷って、人間がもつ慈愛の心で治るんでしょ? 僕にそれがあるか分からないけど、試す価値はあると思うんだけど、どうかな?」
 そう言う青年のオーラは光輝いており、彼が美しい心の持ち主であることは容易に判断できた。黙ったまま同じ様に右手を差し出すと青年は手を握ってくる。手の平から伝わる温かい光が身体に注ぎ込まれると、途端に自身の全身から光が溢れ始める。
「うわっ、身体が光ってる。大丈夫?」
「大丈夫だ、天使の身体が光っているときは治癒している証だからな」
「そっか、じゃあお役に立ててるみたいで良かった。僕は瀬戸類と言います。僕のこと覚えてません?」
 治癒を受けながら問われ改めて顔を見ると、昨夜のことを思い出す。
(ああ、昨日民家で会った人間か)
「昨夜、迷惑をかけた人間だな。悪い事をしたな。私はミラだ」
「ミラさんですか、宜しくです。家の方は八神君から政府補償で全額無料で直せると聞きましたし、気にしてませんよ。それより一体どんな悪魔と戦っていたんですか? ミラさんがこんなにボロボロになる程の戦闘だなんて」
「任務だから詳しいことは言えない」
「そうですか。八神さんがデビルバスターというのは紹介を受けたので知ってるんですけど、きっとミラさんはその相棒みたいなもんですよね?」
(相棒だと? ふん、むしろアイツにとって私は死神だろうな。そうだ、もしかしたらコイツ)
 ミラは紹介を受けたという言葉で閃く。
「相棒か、まあそんなところだな。ちなみに瀬戸類は八神玲司の居場所を知っているのか?」
「ええ、政府補償の件で困ったらいつでも相談してくれって。家がわりと近所ですしね。それが何か?」
(あの家の近所か、なら詳しく聞くまでもないな。傷は半分も癒えてないが、戦えないこともない)
 類の右手を離すとミラから発せられていた光が消える。
「あれ、もういいんですか?」
「ああ、助かった。もう十分だ」
「でも、まだ身体の至る所に傷がありますよ?」
「大丈夫だ。悪者退治するには十分の快復具合だ。助かったぞ」
「そうですか、でも無理しないで下さいね。また困ったときは僕を頼って下さい。出来得る限りミラさんに協力しますんで」
 昨日今日会ったばかりの自分に対してなぜ協力的なのか疑問を感じつつも、ミラは頷き上空へと飛翔する。類は嬉しそうな顔でその姿を見送った――――


――言われた通り類の自宅上空より探していると、公園のベンチに座る玲司を見つける。少し手前に降り立ち剣を具現化すると、玲司も立ちあがり抜刀しつつ話し掛けてくる。
「一つ、聞きたい。レトは君にとってどういう存在だ」
(どういう存在だと? よくもぬけぬけと聞けたものだな。コイツらは私が天界で孤独と戦っていたとき、父と楽しく過ごしていた。私が悩み苦しんでいたときも、コイツらは父に守られていたに違いない。そんな父を奪っておいてどんな存在だなんて……)
「父だ。八神玲奈に取られたがな」
「つまりあんたは俺の姉さん、ってことになるのか?」
(コイツ、殺す!)
「汚らわしいことを言うな! お前らのせいで父は死んだ! 一度ならず二度もだ! 私は絶対貴様ら親子を許さん! 貴様のような下等生物と血が繋がっていると思うだけで虫ずが走る。今すぐ抹殺してやる!」
 怒りに任せ突進し斬りかかるも玲司はそれを余裕で受け止める。
(くっ、やはりスピードが落ちて簡単に見切られているか。それならば力で圧す!)
 素早く空中に翻ると同時に巨斧を具現化して、一気に振り下ろす。しかし上手く回避され、接近を許してしまう。
(マズイ、剣を出さねば)
 ガードすべく剣を具現化するも、そのスピードもいつもより遅れ気味になり、ギリギリでのガードとなる。安心したのも束の間、そのガードを予期していたかのように昨日ダメージを受けた脇腹に玲司の強烈な蹴りがヒットする。遥か後方に吹っ飛ばされながらもミラは怒りに身を任せ、急速転回し再度突進する。
(許さん! 絶対に許さんぞ! 八神玲司!)
 突進斬りを繰り出すも、避けると同時にカウンター攻撃を腹と背中に受けダウンする。
「勝負はついた。その怪我じゃ俺には勝てない。もう諦めろ」
 玲司の勝ち名乗りを聞いてすぐさま反論する。
「ふざけるな。私は必ず貴様を殺す。やられたくなければ今すぐ私を殺せ」
 ミラの言葉を無視し玲司は納刀し距離を取る。その姿を見てミラは素早く立ち上がり再び剣を構える。
(どういうつもりだ? 絶好のチャンスだったのに……)
「何のつもりだ? 何故トドメをささない」
「俺はデビルバスターだ。天使は殺さん。それだけだ」
「あまいな。これは死闘だ。殺し合いにルールも信条も無い」
「そうか? じゃあ、一般人の多かった池袋公園で戦わなかったこと、夜道でわざわざ正面から待っていたり名乗ったりすることは、その死闘とやらの精神に合致してるのか? 本当に憎いと思う相手なら、とっくに闇討ちしてる。つまり本当のアンタは優しいヤツなんだよ」
(私が優しいだと? 言うにことかいてこの私を愚弄するつもりか!)
「黙れ下等生物が! 私を知ったふうに語るな! 公園では死闘から邪魔者を廃除したかったにすぎん。誰にも邪魔されず貴様を心置きなく殺すためだ。私は今までお前達に復讐するためだけに生きて来た。私の存在理由はそれだけなんだ。いまらさら情けをかけられても、大好きな父は返ってこない。お前らが父を奪ったんだ! 今すぐ冥土に送って……」
 突然走る腹部の痛みにミラはその場に倒れ込む。
(くっ、新手が居たのか、不覚。このダメージは決定的だ。くそ、こんなところで死ぬなんて、復讐を果たせずこのまま朽ちて行くなんて。嫌だ、嫌だよ。パパ……)
 腹部の槍が容赦なく差し抜かれた瞬間、ミラの意識は無くなっていた。
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