すれ違い天使Lovers
橘家の人々

 ミラとの戦闘を話すと結局橘邸に赴く流れになり、ある程度予想はしていたものの玲司は自分自身の考え得る最悪の自体を迎え辟易する。
 右腕には蘭(らん)が左腕には絢(あや)がしっかり絡み付き全く離れる様子がない。双子らしくよく似ているが、留真のように可愛いらしく、とても和服の似合う、上品で女の子らしい男の子だ。
「アヤ、私のレイちゃんから離れなさいよ」
「それは私のセリフ。ランこそどっか行きなさいよ」
 引きつった顔の玲司を挟んで、小学一年生の火花散る玲司争奪戦が繰り広げられている。留真に救助の視線を送るも、議題に挙がった緊急性の高い話に集中しているようで見向きもされない。
「つまり、そのミラって天使がレイちゃん及び玲奈の命を狙ってるってことか。玲奈、心辺りないの?」
 橘家当主の妻ながら、宝塚男役のトップスターと見間違われる程男前な橘恵留奈が難しそうな顔で迫る。
「私がデビルバスターを引退してから十年経つけど、天使も含め悪魔とトラブった記憶はない。だから全く心辺りがないかな」
「そうなんだ。でも玲奈だけでなくレイちゃんまで殺そうなんて、尋常な恨み方じゃないでしょ。絶対玲奈に関わることだって」
「そう言われてもね~」
 温かいレモンティーを口にしながら、双子に纏わり付かれぐったりする玲司を玲奈は見つめる。そこへ玲奈たちがやって来た以降、情報収集に徹していた千尋がやっと動きを見せる。
 和服姿の千尋は日本美人を地で行っており、誰もが振り向く所作を持ち合わせているが、れっきとした橘家当主である。
「お待たせしました。天使省に問い合わせて、いろいろと分かりましたよ。ミラは最近地上に来たばかりの天使で、ランクはパワーズ。ただ、戦闘センスはとても高く、実力はヴァーチャーズ以上とも。おそらく私と同等かそれ以上かと。これは推測ですが、地上に下って間もないことを考えると懲罰覚悟での言動でしょう。それと、もう一つ。ミラのフルネームがミランダ・ビュランダル、だそうです」
 ビュランダルという名前を聞いて玲奈は目を見張る。
「ビュランダルって、まさか……」
 恵留奈が驚いていると千尋が補足する。
「はい、玲奈さんの旦那様で玲司さんのお父上でもあった、レトさんの名前もビュランダル。ここに何かしらの意味があると考えるのが自然です。ゆえに、今回の件は天界よりの懲罰部隊より先に事態を収拾し、事件の真相を突き止める必要もあります」
 千尋の言葉を聞いて玲司はミラの目つきが誰に似ていたのかを鮮明に思い出す。
(オヤジだ。あの氷のように冷たい目つき。じゃあアイツはオヤジの親族か何かか。でもオヤジが先の大戦で死んでから十年。今になって母さんや俺を狙う意味が分からない)
 蘭と絢を無視しながら考え込んでいると、千尋が雰囲気を察したのか話し掛けてくる。
「玲司さん、何か思い当たることがおありなら、おっしゃって」
「いえ、刀を交えたときに見た目つきがオヤジそっくりだったな、ってくらいです。さっき千尋さんがおっしゃっていたように実力はかなりのもので、剣速は千尋さん以上かもしれません。具現化武器も基本の剣から、母屋すら両断出来るような大型武器まで扱えるようです。結論からすると、スピードとパワーを兼ね備えた厄介なタイプの天使です」
 玲司の分析に皆一様に黙り込んでしまう。千尋は紅茶を一口飲んでから口を開く。
「対策が必要ですわね。倒すにせよ話し合うにせよ、ミラの武力を止める力が必要。ミラを追い払ったという同級生の娘さんの尽力が鍵を握るかもしれません。すぐに連絡付きますか?」
「すいません、初見でしたし連絡先までは。確か名前は葛城美咲と名乗ってました」
「葛城、美咲?」
 千尋のみならず玲奈と恵留奈の顔色が再び変わる。
「えっ、千尋さんたちもご存知ですか?」
「彼女の父親は悪魔ながら私達の仲間でした。けれど、先の大戦で彼は亡くなり、娘の美咲さんは天使を恨んでいます。まさか留真や玲司さんと同じ高校とは。気をつけてね玲司さん。彼女は天使狩りの異名を持つ程の殺戮者だから」
 美咲の可愛い顔が頭に浮かび上がり、その笑顔と千尋から聞かされる内容のギャップに玲司はゾッとする。
「問題が二つに増えた感じですわね。ミラと美咲さんを上手くぶつけることが出来れば、漁夫の利と行けるのですが」
 頬に手を沿え悩む千尋を見て、留真が提案を出す。
「ママ、僕にいい考えがあるんだけど」
 アイドルらしからぬ不敵な笑みを浮かべると、留真はミラとの作戦を語り始めた。

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