すれ違い天使Lovers
判決と手紙

 惜別の気持ちを心に留めたまま天界に降り立つと、天使門でナナリィが待ち受けている。ミラとは正反対で小柄でフワフワした雰囲気ながら、その表情は自信に溢れており人間界での充実度が推し量れた。
「お久しぶりね、ミラ。人間界ではどうでしたか?」
「とても良い経験をさせて貰ったよ。ナナリィは?」
「右に同じですわ」
「そうか、じゃあ判決を受けに行こうか」
 天使界で法を司る法曹院に赴くと、管轄する智天使ゾフィエルが待ち構えている。ひざまずくと特別な労い等もなく即判決に入る。
「ナナリィ・ロイッツ。そなたは人間界における言動宜しく適格である。人間界での報告をまとめた後、再び降臨せよ」
「ありがたき、幸せ」
「ミランダ・ビュランダル。そなたは、人間と戦い、半悪魔を逃し、人間と恋に落ちた。よって不適格。百年の天界任務とす」
 判決にナナリィは驚いているがミラは分かっていたようで落ち着いた顔をしている。
「謹んでお受け致します」
 ゾフィエルに会釈し法曹院を出るなりナナリィが詰め寄る。
「ミラ! どういうことですの? 説明していただけますか?」
「説明も何も、判決通り。私は天使として不適格だったということだ」
「納得いきません。詳細をお願いします」
 珍しく剣幕激しいナナリィをなだめつつ、ずっと空にしていた自宅に二人で戻ると早々に切り出してくる。
「どういうことですの?」
「隠していてすまない。私は元々ある人間に復讐するために人間界へ降りたんだ。父を奪った人間を殺すため」
「殺したの?」
「いや、そもそも私の復讐が見当違いのものだった。その復讐するはずだった人間に救われ家族になり、その息子に恋をした」
 恋という単語にナナリィもビクッとする。
「後悔はしてない。天使門でも言ったが、本当に良い経験をした。心の底からそう思えるよ」
「ミラ……」
 笑顔でありながら目の奥にあるは寂しさは隠しきれていない。我慢しきれずナナリィは感じた様をそのまま口にする。
「……天使門で貴女を見たときすぐに感じました。目つきが慈愛に溢れている、と。半年前の貴女は常に好戦的で、力こそが正義と言わんばかりでした。先に言ったように復讐のため生きていたからこそ、あのような冷たい目つきだったのですね。しかし、今のミラはとてもいい。私が言うのもなんですが、心身共に素晴らしい天使だと思う。私は、研修中とは言え恋を禁じる今の法が正しいとは思っていません。今回の件は大変残念ですが、私もミラの行いが全て間違っていたなんて思いません。むしろ、ちょっと羨ましい」
 笑顔になるナナリィを見てミラも笑顔になる。
「その彼って、素敵な人だったの? 教えなさいよ」
 問われた瞬間、ミラは玲司の顔が浮かび顔を赤くする。その変化を見逃さずナナリィはニヤニヤしながら切り込んで行く。その後は女子らしく二人はは恋バナに興じていた――――



――二週間後、ナナリィの人間界再降臨を前にしてミラは天使門へと見送りに行く。
「ナナリィ、達者でな」
「ミラも」
 ミラは頷き右手を差し出す。
「右手の握手は再会の握手だそうだ」
「日本の迷信というものかしら?」
 笑いながらもナナリィは右手を差し出す。しかし、ミラの手を握った瞬間ナナリィは違和感を覚える。
「もし日本に行くことがあれば、ついでに迷信の件を調べるのも面白いかもな。もしかしたら私が教えて貰った白金台という地域限定かもしれないが」
「分かりましたわ。機会があれば是非」
 手に握らされた手紙を隠し持つと、ナナリィは人間界へと飛翔する。その後姿をミラは祈るような面持ちで見送っていた。
< 30 / 35 >

この作品をシェア

pagetop