すれ違い天使Lovers
エンジェルバスターとデビルバスター

 放課後、あまり人気のない中庭で一人たたずむ美咲を確認すると、玲司は駆け寄って行く。
「ごめん、待たせた?」
「ううん、全然」
「えっと、その、正直今日もいろいろあり過ぎて、葛城さんのことを考える余裕がなかった」
「だと思いました。ミラさんの件、私もビックリしましたからね」
「いや、一番ビックリしたのは俺だよ。完全不意打ちの入学だから。まあ一緒に住む件も不意打ちだったんだけど……」
 引きつった顔をする玲司を見て美咲は苦笑する。
「もしかして八神君、ミラさんの件で困ってます?」
「困ってるというか、戸惑っているというか、複雑だな。悪いヤツじゃないのは確かだけど、急に姉だって言われても受け入れられない部分もあるし。でも、家族となることでミラが抱えていた傷みたいなものが癒されるのなら、それはそれでいい事だと思うし俺も協力したいとは思う。ちょっと強引で戸惑う部分はあるけどな」
 笑顔で語る玲司に美咲は複雑な表情になる。
「あの、もしかして八神君。ミラさんのこと……」
 美咲の質問を切り裂くように携帯電話の着信音が鳴り急いで取り出す。緊急性の高い着信音からして任務の依頼だと察する。
「ごめん! 討伐依頼が来た。この件はまた保留でいいかな?」
「是非もありません。私は待つ側ですし」
「ありがとう」
「ところで依頼の場所はどこですか?」
「確認する」
 ディスプレイを開き確認すると、学校の校庭を指している。
「ここだ。学校。しかも校庭」
「本気ですか?」
 美咲の問いかけを書き消すかのように校庭の方角で悲鳴が聞こえる。顔を見合わせると二人は同時に校庭へと走る。逃げ惑う生徒とすれ違いながら校庭に出ると、天使二人対悪魔五人が激しい戦いを繰り広げている。地面には天使が一人倒れており、天使側の劣勢は一目瞭然だ。
「くっそ、今回も素手か。相手は人間タイプの剣士だし、面倒臭そうな戦いになるな」
 文句を言っていると美咲から鉄の剣を渡される。
「えっ?」
「私、武器具現化精製の能力あるんです。一応半分悪魔なんで」
「いや、それも驚いてるんだけど、俺が相手するの悪魔だよ?」
「ああ、そういうことですか。私は天使を憎んでいますし、エンジェルバスターを豪語してますけど、悪魔に組してるわけじゃないですよ。『天使だろうが悪魔だろうが、気に入らないヤツはぶっ殺す』葛城家の家訓です」
 ワイルドな家訓を受け内心引くも、現状頼りになるのも理解する。
「葛城さんの信念に反するお願いかもしれないけど、今だけデビルバスター葛城美咲になって討伐のフォローをしてくれないか?」
 真剣な眼差しを向けられ美咲は照れながらも快諾する。美咲の返事を確認すると、玲司は素早く距離を詰め悪魔の一人に斬りかかる。当然のように剣で受け止められるが、それを見越したかのように美咲が上空より襲い掛かり、一瞬にして一体目を討伐した。一人がやられたことにより他の悪魔も警戒し隙の少ない陣形態を組み始める。
「へえ、訓練された悪魔か。こりゃ厄介だな。葛城さん、策はある?」
「正面からぶち殺す」
「うわぁ、分っかりやす。そんじゃ、フォロー宜しく!」
 美咲の作戦通り正面からなぎ払うように斬り込んで行くと四人共空中に飛んで逃げる。空中からは剣が一斉に投げつけられ、玲司はそれらを必死になぎ払う。次の瞬間、空が陰ったと思うと無数の槍が雨あられのように降り、空中に居た悪魔全員を一気に煙に変える。
(コイツ、武器具現化能力高すぎだろ……)
 呆然としながら見ていると手に持っていた剣も消滅していく。美咲の傍に寄ると背後にいる三人の天使が気になるのか、厳しい視線でチラチラ見ている。
「葛城さん、今はデビルバスター」
「うっ、はい……」
 玲司に言われると美咲も大人しくならざるを得ず素直に従う。礼を述べられ天使が飛び去って行くのを確認すると、改めて美咲に向き合う。
「フォローありがとう。助かった。と言うか、討伐したの全部葛城さんだから、俺が引き立て役だったか」
「そんなことないです。八神君が特攻して隙を作ってもらっての討伐ですから。言わば二人の共同作業です」
「いや、でも前回のミラ戦でも結局葛城さんの力が無いとどうにもならなかった。感謝してるよ」
 思いがけず感謝の言葉を貰い、美咲は顔を赤くする。
(葛城さんはエンジェルバスターという点を除けば、本当に可愛い女子高生だ。ずっと彼女のいない俺にとっても悪くない話なんだけど……)
 玲司は考えた後、思いきって切り出す。
「葛城さん、本格的にデビルバスターにならない? 俺の立場からしてもエンジェルバスターの彼女ってのはいろいろマズイ。でも、デビルバスターなら問題なく大手を振って一緒に歩ける。だめかな?」
「私がデビルバスターになれば付き合ってもいい、つまりこいうことですか?」
「そう捉えて貰っていい」
「お断りします」
 笑顔が消え真剣な眼差しで断られ玲司はビクッとする。目つきからして不機嫌なことが容易に判断できる。
「公園でも言いましたが、私は私の生き方を変えるつもりはありません。今回は八神君のお願いであり、八神君の命に関わることなので折れましたが、人生の指針まで変えて付き合おうとは思いません。もし、それが条件というのでしたら、私たちは一生分かり合えない道を歩むことになるでしょうね」
 本気で言っていることが雰囲気から伝わり、玲司は少し戸惑う。
(葛城さんの信念がこんなに固いものだとは思わなかった。おそらく俺以外のお願いだったら歯牙にもかけず、さっきの天使達を殺していたに違いない)
「ねえ八神君。もし私と逆の立場だったらどう思うか考える? 好きな相手からデビルバスターを辞めて、エンジェルバスターになったら付き合うと言われて、いい気分になるかしら?」
(確かに……)
「ごめん。俺、考え違いしてた。さっきの言葉取り消させて貰うことできる?」
「いいよ」
「ありがとう。改めて、言うよ。葛城美咲さん、エンジェルバスターとかデビルバスターとかを抜きにして、一人の女性として俺と付き合って欲しい」
 言葉と同時に差し出される右手を見て、美咲は満面の笑みを浮かべ正面から抱き付いていた。

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