すれ違い天使Lovers
所詮、悪魔は悪魔であり、天使は天使

 悪魔討伐の管轄部に討伐報告を済ませると、恋人記念日ということで早速カラオケと買い物に赴く。美咲は終始笑顔でおり、玲司も一緒に居て楽しい気分になる。しばらく、並んで歩いていると駅前の大型スクリーンに目が行く。
 そこには天使系宗教団体の教祖が映し出され、より良い社会実現のための演説がなされていた。美咲もそれを見ているようで、玲司は気になって訊ねる。
「アレ見て、むかつく?」
「ううん、別に。宗教については自由だと思うし」
「そうなんだ、天使憎けりゃ天使崇拝も嫌いと思ってた」
 冗談めかして言う玲司に向って美咲も笑顔をつくる。
「私は父の仇が天使ってだけで、人間も自然も好き。宗教だって理解ある方だと思う。でもね、悪魔ってだけで父を殺した天使は許せない。悪魔だって良い悪魔もいれば悪い悪魔もいると思う。ミラさんが最初八神君を殺そうとしたように、天使にだってそれはあてはまると思うの。だから、父を簡単に悪と決めつけ抹殺した天使軍団は私の敵。これは今後も変わらないし、変えようとも思わない。大好きな八神君のお願いでもね」
 重い話ながら、最後にウインクされ玲司は照れる。
「そう言えば、八神君はなんでデビルバスターやってるの? 公務員扱いながら実質ボランティアでしょ? 危険な仕事なのに」
「親父が天使なんだけど、母親もデビルバスターだったんだよ。言わば家系みたいなもんか? 周りの友人知人も揃ってデビルバスターだったし」
「そうなんだ、お父様は亡くなっているのよね? やっぱり先の大戦が原因?」
「ああ、十年以上も前の話だし、詳しくは知らないけどな」
「じゃあ悪魔が憎い?」
「いや、それは不思議と無かったな。親父は戦いの中でしか生きられないような天使だったし、その戦いの中で散れたのなら本望だったんじゃないかと思ってる。まあ、本人にしか分からないことなんだろうけど」
 玲司の考えに触れ、美咲は言葉が出ない。互いに同じ大戦で父を亡くしながら、方や復讐を選び方やその死を尊重している様が浮き彫りになる。
「俺の家は特別と言うか、俺と親父がそんなに仲良くなかったのもあるかもな。だから、ミラや葛城さんのように大好きな父を亡くし、その想いを糧にして生きているってある意味尊敬するし羨ましくもある」
 黙り込んでしまう美咲を見て、自身のセリフが少々説教臭かったかもと省みる。
「まああれだよ、単純にお互いの信じる道を進めばいいだけの話さ。葛城さんの生き方を俺はとがめたりしないし、束縛したりもしない。葛城さんが校庭で言ったように、自分の生き方まで変えて付き合うなんて間違ってるし」
 玲司の言葉から美咲は汲み上げ問い掛ける。
「もし、お互いの信じる道が衝突して、どちらかしか選べない状況になったとき。八神君はどうする?」
「どうって言われても、そりゃ、話し合ってみて、それでもダメなら別れるしかないかもな」
「それが『別れ』ではなく『生死』だとしたら、八神君は私を斬るの?」
 美咲の問いに玲司は返す言葉が出て来ずに困惑する。歩きながら話していたはずが、いつの間に歩道の真ん中で向き合い話し合っている。
(何気に重たい質問だな。葛城さんが言うようなシーンにならない事が一番だけど、明確な答えが出てこない)
 困惑した表情を見せる玲司を見て、美咲はハッとする。
「ご、ごめんなさい! 初デートでこんな重い話振っちゃって。さっきの質問は無しでお願いします」
 頭を下げる美咲に正直ホッとする反面、問われたような状況が来た場合、自分ならどういう判断をするのか疑問に思う。以降は再び笑顔の絶えない通常のデートとなるが、心の底では問われたような選択がいつの日にか迫り来るのではと感じていた――――


――深夜、二日連続となるミラとの特訓により、汗だくになりながらベンチで休憩する。実際に何度も刀を交えることでミラの剣速に慣れ、自身の剣速もそれに呼応するかのように迫りつつあった。
 天使ゆえに光集束の修行は全くできないが、実戦形式の剣戟は玲司を確実にレベルアップさせていた。肩で息をしていると、ミラが剣を握ったまま近づいて来る。
「まだ休憩がいるのか? そんなことじゃ朝が来るぞ」
「いやいや、ホント今日は勘弁してくれ。夕方、悪魔討伐もあったんだぞ?」
「そうか、夕方以降、女とデートする元気はあっても、修行する元気はないのだな?」
(コイツ、監視してやがったな。くそ……)
 反論できずに黙り込んでいると、ミラは具現化した剣を消し隣に座ってくる。
(また嫌味の一つでも言われそうだな)
 覚悟をして見つめていると意外なことを口にする。
「あの葛城という人間、危険だから近づかない方がいい」
「えっ?」
「悪魔の匂いがする」
「はは、そんなことか。そりゃそうだよ。葛城さんはデビルハーフだから」
「いや、そういう意味ではなくて、まとわり付いているオーラというか雰囲気みたいなもんだな」
「ん? 具体的にどういうことなんだ?」
「そうだな、本人が本来持つ属性とは無関係の属性が外的要因によって影響を受けている、と言った感じだ」
「つまり、葛城さんの周りに悪魔がいるってことか?」
「そうだ」
「それってヤバイのか? 天使系の属性ならまだしも、本人も半分悪魔の血が流れてるのに悪魔の影響なんて皆無だろ」
「玲司は勘違いしてるな。基本属性と本人の行動理念は別だぞ。今日学校での戦闘を見ていたが、葛城は天使側に付いて戦った。それは玲司が天使側の人間で葛城が玲司を好いていたからだ。これがもし私ならば、葛城は悪魔側に加担していただろう」
(それは確実に言える。俺の頼みじゃなければ参戦してくれなかっただろう……)
「極端な言い方をすれば、葛城の周囲に天使系統の知人ばかり居たなら、葛城の基本属性が悪魔であろうと行動理念は天使系になる。現状は逆っぽいがな」
「つまり、美咲が天使を忌み嫌う理由は、父親を天使に殺されたこと以外に彼女を取り巻く環境が大きい、ということだな?」
「そういうことだ。そんな葛城と一緒にいれば、当然ながら玲司も悪魔の影響を受ける。ゆえに、近づかない方が良いという結論だ」
「逆説的に言うと、環境次第で彼女の思想を変えることができるってことだよな?」
「そうなるな」
(よし! ならば俺が葛城さんを変えてやればいいだけだ! 簡単なことじゃないか)
 笑顔になる玲司を見てミラは忠告する。
「玲司が今何を考えているのか想像は付くが一つ言っておく。行動理念については先に言った通りだが、所詮、悪魔は悪魔であり、天使は天使だ。それだけは忘れないでおいた方がいい」
 意味深な言葉に反論しようとするも、それを許さないような雰囲気を発しており、玲司は黙ってその横顔を見つめていた。

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