何度でもあなたをつかまえる
千秋は、千歳とアイコンタクトを取ってから、重々しく言った。
「……既に、領子(えりこ)さんと百合子ちゃんは、我が家とは関わりのない人間になった。数日中に荷物も全て実家に送り届けるので、そのつもりでいなさい。」
「それでは、もう?」
母の確認に、千歳がうなずいた。
「先ほど、車の中で弁護士の先生からお電話をいただきました。区役所に既に提出していただいたとのことです。……ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした。」
「あなたが謝ることじゃありませんよ。……けっこうです。不愉快なことは、もう忘れましょう。」
頭を下げた千歳に、母はクールにそう言った。
母と兄が淡々としていることが、かほりには不思議で仕方なかった。
「あの……お兄さま。……百合子ちゃんとは……もう……逢えないのでしょうか……。」
恐る恐るそう尋ねたかほりに、兄の千歳は表情を変えずに言った。
「逢う必要は、ない。……あれは、橘の血を引いていない。比喩ではなく、他人だ。」
……他人……。
そんな……。
「ついさっきまで、かわいい姪っ子だったのに……。そう簡単に切り替えられませんわ。」
かほりが途方に暮れたようにそうつぶやくと、母の表情が変わった。
「ええ。私も、かわいい孫だと思ってましたわ。私にも、お父さまにも、千歳さんにすら似てなくても……領子さんによく似た美人だと、むしろ我が家の誰にも似てないことを喜んですらいましたわ。……あの子のお洋服を選ぶのがどれだけ楽しかったか……。」
目が据わっている……。
かわいさ余って憎さ百倍、というところだろうか。
母は怒りに震えて……泣き出した。
「こんな屈辱……耐えられません。こんな……こんな……」
「もう忘れると、ついさっき、あなたが言ったのに……仕方のないひとだ。」
感情的になりそうな妻の肩を抱いて、千秋がそうなだめた。
そして、かほりに向かって言った。
「気持ちはわかるが、こうなってしまった以上、領子さんと百合子ちゃんのことは諦めなさい。」
「……。」
かほりは、返事できなかった。
家族だと思ってきた人達のことを、そう簡単に切り捨てられるわけがない。
……折を見て、個人的に連絡を取ることは……可能だろうか……。
「……既に、領子(えりこ)さんと百合子ちゃんは、我が家とは関わりのない人間になった。数日中に荷物も全て実家に送り届けるので、そのつもりでいなさい。」
「それでは、もう?」
母の確認に、千歳がうなずいた。
「先ほど、車の中で弁護士の先生からお電話をいただきました。区役所に既に提出していただいたとのことです。……ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした。」
「あなたが謝ることじゃありませんよ。……けっこうです。不愉快なことは、もう忘れましょう。」
頭を下げた千歳に、母はクールにそう言った。
母と兄が淡々としていることが、かほりには不思議で仕方なかった。
「あの……お兄さま。……百合子ちゃんとは……もう……逢えないのでしょうか……。」
恐る恐るそう尋ねたかほりに、兄の千歳は表情を変えずに言った。
「逢う必要は、ない。……あれは、橘の血を引いていない。比喩ではなく、他人だ。」
……他人……。
そんな……。
「ついさっきまで、かわいい姪っ子だったのに……。そう簡単に切り替えられませんわ。」
かほりが途方に暮れたようにそうつぶやくと、母の表情が変わった。
「ええ。私も、かわいい孫だと思ってましたわ。私にも、お父さまにも、千歳さんにすら似てなくても……領子さんによく似た美人だと、むしろ我が家の誰にも似てないことを喜んですらいましたわ。……あの子のお洋服を選ぶのがどれだけ楽しかったか……。」
目が据わっている……。
かわいさ余って憎さ百倍、というところだろうか。
母は怒りに震えて……泣き出した。
「こんな屈辱……耐えられません。こんな……こんな……」
「もう忘れると、ついさっき、あなたが言ったのに……仕方のないひとだ。」
感情的になりそうな妻の肩を抱いて、千秋がそうなだめた。
そして、かほりに向かって言った。
「気持ちはわかるが、こうなってしまった以上、領子さんと百合子ちゃんのことは諦めなさい。」
「……。」
かほりは、返事できなかった。
家族だと思ってきた人達のことを、そう簡単に切り捨てられるわけがない。
……折を見て、個人的に連絡を取ることは……可能だろうか……。