何度でもあなたをつかまえる
「落ち着きなさい。かほりの気持ちを尊重すると決めたのでしょう?」

千秋の取りなしすら、母は拒絶した。

「そんなもの!……そんないい加減な気持ちで結婚したり離婚したりする男性、信用できません!」

「……いや……それは……。俺も、立場は同じですよ。お母さん。」

見かねたらしく、兄の千歳が母にそう言ってくれた。

何となく、かほりはホッとして兄を見つめた。

兄は妹の視線に多少息苦しさを覚えながら、母親を諭した。

「跡継ぎが必要なのでしょう?……俺は、もう、結婚は懲り懲りですからね。後は、かほりに託すしかありませんよ。……雅人くんの優秀さは、お母さんも認めてらっしゃるからお許しする気になられたのでしょう?」


跡継ぎ……。

私?

え?

どういう意味?

私と雅人の子供が、この橘の家を継ぐことになるの?


じゃあ、お母さまが急に雅人に好意的なことを仰ったのも……跡取りが欲しいから?


唖然とするかほりの横で、雅人は……憮然としていた。

つまり、なんだ?

俺は、種馬ってことか?

……何だよ、それ。

信じらんねーよ。

失礼にも程があるだろ。


やってられねーよ……そう、吐き捨てて、出て行きたい衝動にかられた。

が、ずっと震えているかほりを……ほっといて帰ることは……雅人にはとてもできない……。


参ったな……。




息子の千歳の言葉に、母はぐっと口を引き結んだ。




しばらく、立ち尽くしていたが、しばらくして息をついて、今度は雅人に向かって言った。

「……これ以上の醜聞は認めません。」

これ以上……って……。

言葉の意味がよくわからず、雅人は戸惑った。

「はあ。あの、それって……。」

「少し、時間をください。その間に、あなたは、完璧に身辺整理をしてください。誰にも後ろ指をさされることのないように、品行方正に生活してください。かほりも。ケルンから同居人のかたから連絡がありましたよ。留学を全うしてから帰国なさい。」


母の言葉に、かほりと雅人は顔を見合わせた。


前向きに……捉えていいのだろうか……。

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