何度でもあなたをつかまえる
母親は、わざわざぴしゃりと音を立てて障子を閉めた。

……お行儀悪いですよ……なんて、さすがに言えないよな……。

あいつが起きてしまう……。


「……とりあえず……移動しましょうか。」

俺の提案をどう聞いたのか、母親は俺を睨み付けるように見てから、つーんと顎を上げて、くるりと踵を返した。

ついてこい、ということだろう。


さすがに上半身裸のままだとマジで風邪をひいてしまいそうだ。

パジャマの上衣を取ってきて着てから母を追うつもりで、障子をそっと開けた。


……うわぁ。

何てゆーか……乱れているのは寝具だけじゃなかった。

空気が……澱んでいるというか……ハッキリ言ってしまえば、臭い。

成人男子2人分のいろんな体液が混じり合った、何とも言えない匂いだ。

こりゃ、単に一緒に飲んでて寝てしまっただけ……なんて言い訳が通用するとは思えない。

完全にヤッてました……ってバレバレだろう。


あーあー。

いや、天を仰いでいる暇はないか。

慌てて自分のパジャマの上衣を探す。


……げ。

雅人が……千歳のパジャマを蒲団のように身体に覆って眠っている……。

寒くなったのかな。

蒲団をかけてやるからさ……それ、返してくれないかな?

そーっとそーっとパジャマを引っ張って、かわりに蒲団をすっぽりとかぶせた。


心なしか、雅人の寝顔が幸せそうに穏やかになった気がした。

……無意識に、こいつは……どうして……こんな……

こんな時なのに、千歳の心が弾んでしまう。

たまらなく、かわいい。


ほぼ無意識に、雅人の白い額に口付けた……ら……。

背後に異様な気配を感じた。

振り返ると、母親が目を見開いて立っていた。

「……出て……行きなさい……。」

血の気のない顔色をした母親が、震える声でそうつぶやいた。

「……お母さん……」

さすがに、今のを見られてしまっては……終わりだ。

いや、でも。

こいつを守ることは……できるか……?


「すみません。でも、ご覧の通り、俺が一方的に、雅人くんを、」

最後まで言うことはできなかった。

ピシャリ

と、軽い小さな音を立てて、母親は千歳の頬を打った。

< 106 / 234 >

この作品をシェア

pagetop