何度でもあなたをつかまえる
東出は、低く唸った。

……ヘル・クルーゲも……まあ、確かに、昔から男の趣味は共通していたな。

2人とも綺麗で生意気で優秀な男が好きで……


「……すまん。色香に理性が吹っ飛んだ。」

東出はばつが悪そうにそう謝った。

かほりは、目を閉じて首を横に振った。

「いつものことです。女性だけじゃなくて、同性愛に寛容な男性も……みんな、雅人に惹かれます。……執着せず、後日、雅人に親身になってくださるかたには……むしろ共感いたしますし、感謝すら覚えます。」

そこまで言って、ハッとしたようにつぶやいた。

「もしや……兄も……」

「兄?……かほりさんの?実のお兄さん?……お兄さん、男が好きなヒト?」

キラリと、東出の目が輝いた気がする。

もしかして、兄に対して、興味を持ったのだろうか……。

かほりは首を傾げつつ、東出の反応を洞察した。

「一応、女性と結婚しましたが……離婚いたしました。」

「へえ。」

東出の目がキラキラしている。

かほりは気づいていなかった。

東出は、男にも女にも惚れっぽい。

雅人のことも気に入っているが、実は、かほりのこともかなり気に入っているのだ。

むろん、かほりは雅人以外の男にも女にも興味がない。

さすがの東出も、かほりのことはそばで見守るに留めるつもりだったのだが……兄の存在は……うれしい誤算かもしれない。

「かほりさんに似てるなら、いずれお目にかかりたいものだ。挨拶させていただこう。

下心見え見えではあるものの、嫌な気はしなかった。

「では日本へ帰国される折に。父も一度東出さんにお会いしてご挨拶したいと申しておりました。」

そう言ってから、慌ててかほりは付け加えた。

「父は男性に興味ありませんから。」

「……イチイチそんなこと言わなくていい。……私はあいつよりは理性的だ。」

東出は気恥ずかしそうにそう言った。

力なく、かほりはうなずいた。

そして、息をついた。

「……幾人か……過分なお小遣いをくれる年輩の女性もいたわ。……ホノルル空港の年嵩の女性は……雅人を経済的に支えているのかもしれません。」

なるほど!

東出は、無意識に納得してうなずいていた。

「つまり、あいつはヒモになって食いつないでいるのか……。一言、俺に言えば、いくらでも贅沢させてやるのに。」

思わず、かほりは東出を睨んだ。
< 117 / 234 >

この作品をシェア

pagetop