何度でもあなたをつかまえる
「行くって……Muss ich zurück nach Japan zu gehen?」

かほりは、ドイツ語でアンナに聞いた。

……私……日本に帰るべき?


アンナは力強くうなずいた。

そして、日本語で続けようとして、語彙が足りなくなったらしい。

「マサト、ガ、コワイハ、あーーーー……Notwasserung……throw away……」

アンナが必死にドイツ語と英語で伝えようとしてくれたのは……捨てる?


「捨てられることを怖がってる、ってこと?雅人が?」

そう確認すると、アンナではなく、東出が答えた。

「違うな。逆だろ。……あいつは、自分から人間関係を壊したくない、って意味だろ。……だから、誘われたら断れない。」

「……どういう……意味でしょう?」

いや、もちろん、言葉の意味はわかる。

でも、かほりには2人が雅人のことを言ってるようには聞こえなかった。


「トラウマだろ。……母親に捨てられたトラウマで意地になって両親を捨てて……それがまた別のトラウマになってるんじゃないのか?」

東出の説明を聞いても、かほりはまだピンと来なかった。


「……では、雅人は……本当は家族と一緒に暮らしたいのでしょうか……。」

「実際にうまくいくかいかへんかは度外視すれば、そりゃ、家族は特別やろうなあ。俺かて、現実的に戻ったら、おかんと喧嘩になって大変やろうってわかってても……気持ちだけは実家に帰りたいし。」

しみじみと空はそう言うと、かほりにほほ笑んだ。

「まあ、離れてたら状況もわからへんし、無駄にヤキモキするだけやろ。俺もアンナに賛成。行って来たら?……次のコンサートツアーのリハまで一週間ぐらいあるんやろ?」


「……1週間で……日本に行って、またケルンに戻って来るの?」

無事に戻ってきても、またすぐに欧州を回るツアーが待っている。

……身体……大丈夫かしら……。

プロとしてステージに立つ以上、パーフェクトなコンディションで臨みたい。

最高のパフォーマンスを見せたい。

かほりは自分の体力も……精神力も、心配だった……。

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