何度でもあなたをつかまえる
しかし、かほりの意志が定まる前に、空が飛行機の手配をしてくれた。

珍しく、東出が前向きなことを言ってくれた。

アンナに至っては……かつて雅人を誘惑した贖罪もあるらしく……涙ぐんでかほりを抱きしめて励ましてくれた。


……状況的に、かほりが日本に行かないという選択肢はないらしい。


狐につままれた気分で、かほりは3人に見送られて出国ゲートをくぐった。


去年、ケルンから日本に帰国した時とは、大違いだ。

あの時は、誰にも告げず、1人で突っ走った。

でも、今日は……かほりだけがあまり危機感を抱いていない……というより……積年の経験が、雅人の女性関係に対して、あきらめにも似た放任気分になってしまったのかもしれない。



……とりあえず、落ち着いて考えてみよう。

ホノルルに、雅人は何をしに行ったのだろうか。

そして、誰と行ったのだろう。

……空港で、キスしていたという女性はいったい……誰?



悶々と考えているうちに、眠ってしまった。




帰国したかほりは、迷わず、空港からタクシーに乗り込んだ。

雅人の電話番号はとっくに通じないし、メールアドレスも宛先不明で返ってくる。

とりあえず教授の所有する学生マンションを訪ねた。

一縷の望みは、もろくも崩れた。


雅人の部屋はなくなっていたし、教授もまた入院されているそうだ。


かほりは教授の姪のさとりに、雅人の動向、そしてIDEAの活躍を尋ねた。

「すっごく忙しそうよ。ほぼ毎日ライブがあるの。人気も出てる。……でも、相変わらずお金は全然足りないみたい。バイトできないから、むしろ以前より……カツカツかも。」

「……ライブの出演料、もらえないの?」

CDの印税で生活できるとは、とても思えない。

でも、ステージをこなせば、出演料ぐらいはもらえるはずじゃないだろうか。


……実際、人気アンサンブルに参加しているかほりは……親からの仕送りなしでも優雅な生活が送れるほどに過分なギャラを受け取っていた。

しかし、かほりの状況は、ちょっと恵まれ過ぎなレアケースだろう。


「出演料なんて、雀の涙だと思うよ?でも、衣装とか、事務所の運営はちゃんとできるようになってきたみたい。」

さとりはそう言って、思い出したように言った。

「そうだ。事務所も移転したの。新しい住所、知ってる?」
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