何度でもあなたをつかまえる
……聞いてない……。

かほりは、無意識に唇を噛んだ。


事態は、かほりが思っている以上に深刻なのかもしれない。

りう子がかほりに何も言えないぐらい?

……とりあえず、りう子に連絡してみよう。


その前に……。


「ねえ、さとりちゃん。雅人……結婚したかしら?」

かほりは、思い切ってそう聞いてみた。


「え……あ……う~ん……どうでしょうか……。」

さっきまでタメ口だったさとりが急に言葉を濁して……そのまま口をつぐんでしまった。


「……そう……。ありがとう。……教授には面会できるかしら?ご挨拶がてらお見舞いさせていただきたいわ。」

答えにくそうなさとりを気遣って、かほりは話を変えた。





教授のアパートを出ると、かほりはまっすぐIDEAの新しい事務所を訪ねた。

……思った以上に、IDEAは成功しているらしい。

高層ビルというわけにはいかないが、駅にも首都高の出入口にも近い、真新しいオフィスビルの一室を借りたそうだ。

エレベーターで5階まで上がり、廊下を進んだ奥のドアを目指す。

「OFFICE PLATO」……小さなプラスチックのプレートにはそう書かれていた。

プラトン?

……ああ、そうね。

バンド名がイディアだもの。

事務所名はプラトンなら、ぴったりだわ。

……これも、教授が命名されたのかしら。


ぼんやりそんなことを考えながら……かほりは呼び鈴代わりのドアノッカーを叩いた。

中から出てきたのは、IDEAのメンバーの一条だった。

「あ……。」

一条は、かほりを見て、絶句してしまった。

かほりは、開き直って笑顔で挨拶した。

「お久しぶりです。こんにちは。……りう子さん、いらっしゃいますか?」

「えーっと、滝沢さんは……外回り出てるけど……そろそろ帰って来ると思う。中で待っててよ。まあ、どうぞどうぞ。」

「……ありがとうございます。お邪魔いたします。」

事務所はそんなに広くはなかったけれど、いくつものデスクが並んでいた。

「綺麗なオフィスですね。職員さんも増えられましたの?」
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