何度でもあなたをつかまえる
「……いや。正職員は相変わらず2人だけ。チーフマネージャーが社長になったから、サブマネだった滝沢さんが1人でマネージャーしてくれてるよ。あとは、アルバイトの学生さんが3人。それから、バックバンドの3人も事務作業を手伝ってくれるかな。……茂木と尾崎は、相変わらず事務関係はノータッチだよ。」

一条の説明に、かほりの微笑が少しこわばった。

「雅人は……プライベートも、忙しそうですね。……ハワイで……知人が遭遇したそうです……。」

なるべく当たり障りなく、さらりとそう言った。

一条は、事情がわかってるのかわかってないのか……苦笑した。

「ハワイ……ね。土産もらったよ。マカデミアンナッツのチョコレート。」

「……ハワイで……挙式してきたのでしょうか……。」

かほりがそう確認すると、一条は顔をしかめて、かすかにうなずいた。

「たいしたもんだよ。やってることは、けっこうえぐいのに……どの子からも恨まれてないって、人徳だよね、もう。……かほりさん、コンサートとレコーディング終わったの?早く帰国しないと、いいかげん、やばいんじゃない?尾崎。」

……何をやってるの?

よくわからないけど、一条の口振りなら、雅人がハワイで挙式したことは間違いないようだ。

同時に、結婚相手に対する愛情も希薄そうなことが伝わってきた。


「あの……雅人は、いったい……?」

ガチャリと、小さな音が響いて、事務所のドアが開いた。

振り向くと、りう子がため息をつきながら帰ってきたところだった。


「お帰り。滝沢さん。お客さんだよ。」

一条の出迎えの言葉に、りう子が顔を上げた。

かほりは、笑顔で一歩前に進み出た。

「りう子さん、ただいま帰りました。お聞きしたいことが……」

「かほりちゃんっ!!!」

りう子の表情がさっと変わった。

おもしろいほどに、動揺している……。

それを見ると、逆にかほりの心は落ち着いてきた。

かほりは、りう子に甘えるようになじった。

「雅人に捨てられたことより、りう子さんが私に隠し事してたことのほうがショックですわ。……どうしてすぐにおっしゃってくださらなかったの?」

言ってるうちに、泣きそうになったけれど、涙をこぼさないようにじっと我慢した。
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