何度でもあなたをつかまえる
かほりは、しばしの沈黙のあと、矛先を変えて聞いてみた。

「……諦めるにしても、とりあえず、情報が足りないの。教えてくださる?雅人の……再婚相手のこと。それから、ハワイで浮気してた年嵩の女性のこと。……他にもいるなら、教えて。」


りう子は苦虫を噛み潰したような表情になった。

さっきの一条も、嫌そうな顔をしていたことを思い出して、かほりの胸が痛んだ。

「本当に再婚したの?……お相手の女性は……妊娠されてるの?」

同じ状況を経験したりう子に尋ねるのは気が引けたけれど、思い切って聞いてみた。


りう子は、首を横に振った。

「妊娠してない。でも、再婚はしてる。……期間限定だけどね。」

「期間限定?……いったいどういう……」

ハッとした。

「もしかして、偽装結婚?……外国人の結婚ビザ取得に協力して……戸籍を売ったの!?」

りう子は、はあっとため息をついて、やるせない顔でうなずいた。

「そうよ。よくわかったわね。……呆れたことにね。」

……たぶん、かほりがずっと日本で生活していたら……思いつきもしなかっただろう。

ドイツで過ごした2年半の間に、かほりの周囲でも話題になっていた……外国人の不法就労問題は、他人事ではなかった。

「……犯罪よ……?」

声が……身体が震える……。

冷たくなったかほりの手を、りう子がそっと握ってくれた。

「……犯罪にならないように……偽装結婚じゃないことを裏付ける必要があるらしいわ。ハワイで挙式したのも実績作りのためだそうよ……半分は。」

「半分?……残り半分は?」

聞くのが怖い気もして、かほりもまた、りう子の手にすがるように握りしめた。

「……今、尾崎が身を寄せている女性は、ハワイが好きなんですって。ビーチに銀座があるみたいで、何でも買えて便利なんだそうよ。」

多分に侮蔑を含む声で、りう子は言った。


さすがに、かほりも唖然とした。

その女性とは、一生価値観が合わないだろうな……と、漠然と思いながら。

「えーと……その女……雅人がお世話になっている女性は、いったい?どういうおかたなの?……未亡人とか?」

少なくとも、お正月に若いツバメとハワイ旅行をしているなら、家庭のある女性ではあるまい。
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