何度でもあなたをつかまえる
「彼女が誰と婚姻関係にあるかは、知らない。銀座の、クラブのママだそうよ。石井さんって言ったかな。……尾崎の結婚相手は、店で働いてる中国人女性。あ、そうだ。ママの前には、赤井って金持ちのマダムのペットになってたわよ。その前にも確か……」

「……。」

かほりは、もう何も言えなくなってしまった。

どうして、そんなことになってしまったのだろう。

他に手段はなかったのだろうか。

経済的に大変なことはわかっている。

でも、今まで、そこまで身持ちを崩す事はなかった。

……いや、そうならないために、橘家がバックアップしていた……。

雅人は橘家から完全に離れてしまったのか。


「……ご覧の通り、業績は右肩上がりなんだけどね、まだ大卒初任給程度の最低保障しかできないの。せめてヒット曲が1本出れば、状況は変わるんだけどね……。」

それがいくらなのか、かほりには見当も付かない。

でも、つつましく生活すれば、充分暮らしていけるのではないだろうか。

現に、同じ金額もしくは、メンバー以下のお給料しか取ってないりう子は自活しているのだから。

「お金、足りなかったのかしら……。」

ため息交じりにそう言うと、りう子は頬を引きつらせた。

「尾崎の場合、倹約も贅沢もないからねえ。最低の生活と最高の生活を体験して感覚がおかしいと思う。……あ、でも、かほりちゃん。尾崎は、別にお金に釣られて、ママのヒモになったわけでも、戸籍を売ったわけでもないと思うよ?……考えるのがめんどくさくて、そばにいるヒトの言なりになってるんだと思う。」

「……よく、わかるわ……。たぶん、そうなのでしょうね……。」

さすが、一度は結婚しただけのことはある。

りう子は、雅人のことをよく理解していると思う。

もしかしたら、かほりよりも冷静に、見極めているのかもしれない。

「まあ、そういうことだからさ。……かほりちゃん次第だと思う。誰と結婚しようが、誰と一緒に暮らしてようが……尾崎が惚れてるのはかほりちゃんだけだからさ。」

「……いつでも、取り戻せる、ってこと?」

「うん。……でも、もう、愛想尽かしてしまったほうが、幸せかも。」

りう子は、頭を掻きながらそう言った。
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