何度でもあなたをつかまえる
かほりは、小さく息をついた。

……何となく、状況はわかった気がする。

確かに、……雅人をあきらめたら……楽なのだろうと思う。

でも……。


ホロホロと、かほりの瞳から涙がこぼれ落ちた。

「……私には……雅人しかいないの……。雅人じゃなきゃダメなの。……無理……。」


両手で顔を覆って泣きじゃくるかほりを、りう子はたまらずに抱きしめた。

背中をさすりながら、天を仰いだ。

「……そうよね。うん。わかってる。……だから……連絡できなかったの。私も……お父さまも……千歳さんも……。」



りう子の優しさが、全身から伝わって来る……。

心から、かほりのことを想ってくれている……。


まるで家族のように……姉妹のように、かほりはりう子に甘えて、しがみついて、泣きじゃくった。


りう子は、かほりが泣き止むまで、背中を撫でていてくれた。





「……千歳さん?」

たっぷり10分以上たってから、ふと気づいたように、かほりが顔を上げて、そうつぶやいた。

「あ……。」

りう子が小さく声を上げた。


そのまま、2人は見つめ合ったまま固まった。


えーと……。

「りう子さん、兄のことを、名前でお呼びしてらっしゃるの?」

すんっと、ハンカチで鼻と押さえながら、かほりは尋ねた。

「……あ……うん……えーと……尾崎が、荷物も携帯電話も置いたまま、かほりちゃんのお家を出ちゃったのよね。それで、事務所にいらっしゃって……。」

冷静に話そうとしてるのだろうけれど、りう子は明らかにいつもと違った。


焦ってる?

ううん、照れてる?

もしかして……

「兄と仲良くなられましたの?」

かほりの確認に、りう子の頬が赤らんだ。


「……ま……あ……。」

言葉が出てこない。

唖然としているかほりに、りう子は慌てて手を振った。

「違うの。そういうんじゃないの。……ただ……ご縁があるというか……ほら、千歳さんと私、同じ日に離婚したじゃない?すごくない?」

……すごい?

首を傾げるかほりに、りう子は、誤魔化すのを諦めた。


そして、先ほどまでとは別人のように、しどろもどろになって言った。
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