何度でもあなたをつかまえる
「わかってる。……そうね。そうすべきよね。……でも……それでも……雅人に会いたいの……。」

この気持ちだけは……止められるわけながない。

どんなに雅人が変わってしまったとしても……再び、私の雅人に……戻してみせる。


りう子は苦笑してうなずいた。

「そうよね。……ごめんごめん。かほりちゃんの気持ちはわかってるはずなのに。……そりゃ、そうよね。……待って。連絡してみる。」

そう言って、りう子は携帯電話をいじり始めた。

電話をかけてはみたものの、雅人は出なかった。

仕方なくラインにメッセージを入れて、しばし待つ。


その間に、かほりはIDEAの発売前の新曲を聴かせてもらった。

なるほど、前奏と間奏、後奏に効果的にオルガンが使われていた。

これを、明日、チェンバロにアレンジすればいいのね。

譜面を見なくても……特に問題なさそう。


「せっかくチェンバロを使うなら、アレンジしてみたら……って、一条からライン来たー。」

りう子さんが一条の言葉を伝えてくれた。

「うん。そうね、そのほうがいイイと思う。……できたら、本番前に一度、合わさせてもらいたいんだけど……。」

かほりのお願いに答えずに、りう子は舌打ちした。

驚くかほりに、慌ててりう子が謝った。

「ごめんごめん。違うの。……尾崎から返事来たんだけどね、今、箱根にいるって。明日の帰りの電車が団体客でいっぱいらしくて、けっこうギリギリに着くって言ってきた。しかも……女の席をキープしろってさ。……腹立つわ。」

「箱根……。女……。」

もう何も……考えたくもない。

旅行先から仕事先まで同伴するんだ……。


涙がまた、ボロボロと溢れた。

「……さすがに……逢いに行くわけに、いかないわね……。」

やっとそう言うかほりがいじらしくて……りう子は義憤にかられた。

いや、もはや身贔屓の域かもしれない。

元々は大事な大事な所属タレントと、その彼女でしかなかったのに……今や、かほりはりう子にとって大切な友達でもあり、……何となくいい仲になりつつある千歳の妹だ。

いいかげん、尾崎のワガママでかほりばかりが泣くのを見続けるのはつらい。

「決めた。尾崎にはかほりちゃんが居ることを言わない。女の前で恥かいてもらう。」

りう子は拳を握りしめて、そう宣言した。

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