何度でもあなたをつかまえる
かほりの心からの感嘆に、りう子は首を傾げた。

「お2人とも、もともとお優しかったわよ?」


……そうかしら?

「どう考えても、りう子さんのおかげだと思うんだけど……。」

そうつぶやくかほりに、りう子は肩をすくめた。

「……私にそんな力があれば、とっくに尾崎も一条も改心してるだろうし、IDEAもバンバン売り込めただろうし……男もほっとかないわよ。」

冗談のような口ぶりで、りう子はけっこう本音を吐露していた。


「そんな、宗教者じゃないんだから、万人を徳化する必要はないんじゃなくて?……じゃあ、言い方を変えるわ。りう子さんの存在は橘家にイイ影響を与えてる。たぶん、そういうご縁なのよ。」

「……ご縁……。」

確かに、りう子自身も感じていた。

雅人やかほりの話から得ていた印象では、橘夫人も千歳も、もっとよそよそしい冷たいヒトだと思っていた。

でもむしろ、2人は……愛情をうまく表現できないだけだったのではないか。

りう子の知性と素直さが2人にはすんなりと受け入れられたということか。


かほりはしみじみと言った。

「ええ。ご縁があるのよ。」

「……ご縁ねえ……。あまりにも家柄が違い過ぎて、むしろ別世界の人間だからおもしろがられてるんじゃない?」

謙遜というよりは茶化してそう言ってみたけれど……りう子はかほりをじっと見て聞いた。

「別世界よね。私も……尾崎も……。それでもいいの?」


かほりは何を聞かれているのかよくわからないままに、うなずいた。

「橘家にはりう子さんが必要で、私には雅人が必要なの。……それが、ご縁ってことでしょう?」


りう子は、何も言わなかった。



……かほりちゃんと尾崎の縁は……本当に……また繋げていいのだろうか。

それが、本当にかほりちゃんの幸せなのだろうか。


千歳とも橘夫妻とも、何度も何度も話し合ってきた命題だ。

最近は、橘夫人も軟化して……千歳が再婚して橘家の跡取りを儲けてくれさえすれば、かほりの結婚は諦めるとまで言い出した。

千歳もりう子も……雅人の件でかほりに負い目があるだけに……かほりには幸せになってほしいと心から願っている。


はたして、雅人と一緒になることが、かほりの幸せだと言えるのだろうか……。

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