何度でもあなたをつかまえる
アンコールを受けて、IDEAのメンバー3人がステージに戻ってきた。

「ありがとうございます。えー、お楽しみ、いただけましたでしょうか!」

茂木が客席にそう尋ねると、喝采が返って来た。

「ありがとうございます。えー、それでは、来月発売の新曲を……本日、初披露ですね。タイトルは、……『I'll get by 』。」

ただの曲名なのに、雅人が言うと……かほりには堪えた。

古い古いジャズをモチーフにしたと、曲を作った一条が教えてくれた。

君がそばに居てくれたら僕は何でもできる……力強いのか女々しいのかわからないけれど、一条らしいメロディアスでリリカルな曲だ。

優しさすら感じる柔らかいオルガンの音で始まるはずだった……が……


りう子からのGoサインを受けて、かほりは前奏を弾き始めた。

パイプオルガンの賛美歌のように荘厳なメロディーを、チェンバロでそのまま弾いても迫力が消えて可愛くなりすぎてしまう。

かほりは、通奏低音を用いて音に厚みを持たせて弾いた。


続いて雅人がアコースティックギターを合わせる……はずだった。

しかし、雅人は固まってしまった。


予定の音が聞こえてこないことに不安を覚えながら、かほりは演奏を続けた。

茂木のベースがやけに大きく聞こえる。

慌ててギターが追ってきたけれど……雅人じゃない。

一条がカバーして、雅人のパートを弾いているようだ。


雅人……?

カーテンの向こうで何が起こってるのか、わからない。

が、演奏の途中なのに、次第に客席がざわついてきた気がする。


……いったい何が起こってるの?

弾きながら振り返り、首を伸ばしてりう子を探してみたけれど、誰もいない。

と、その時。

シャッと音をたてて、カーテンが乱暴に引き明けられた。

眩しいライトがかほりの目を眩ませる。

思わず目を閉じたけれど、指は動かし続けた。


「……かほり……。」

雅人の声。

慌てて瞼を上げると、ライトの逆光で真っ黒にしか見えないけれど……確かに、目の前に雅人が突っ立っていた。





第4章 了



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本番中に、何、やってんだー!w

ちゃんと、弾けー!
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