何度でもあなたをつかまえる
……あいつ……何しに来たんや?

かほり、大丈夫かな……。

しかし、妊娠が確認できた日に現れるとは……さすがというか何と言うか……そういうご縁ってやつか?

くやしいけれど、かほりはうれしいやろうな。

……かほりが幸せなら、それでいい……か。


空はそう自分を納得させて、キュッヒェ(台所)に向かった。


妊婦にはビールもコーヒーも紅茶も良くないよな?

とりあえずホットミルクにして……カフェインレスの飲み物を買い足ししとかんとな。


さて。

いつぐらいに持って行けばいいんだろう。

なるべく邪魔したくないような……思いっきり邪魔してやりたいような……微妙な心を持て余して、空はため息をついた。





雅人は、かほりの部屋をノックなしに開けた。

……あれ?

反応がない。

「かほり?いないの?」

小声でそう言いながら中に入る。

返事はなかった。

かほりは、ベッドに横たわっていた。

眠っているようだ。


お昼寝?

幸せそうな寝顔だな……。

うーん、どうしよう。

起こしちゃかわいそうな気もするし……、かと言って、このまま逢わないまま帰ってしまったら……怒るだろうなあ。

困ったな。

雅人は、ベッドにそっと腰掛けた。

すーすーとかわいい寝息が愛しくって……艶やかな黒い髪をそっと撫でて……白い頬に唇を寄せた。

パチッと、かほりの目が開いた。

「あ……ごめん。起こしちゃった。」

「え……雅人……うれしい夢……。」

かほりは、目の前に雅人がいることが現実とは思いもよらなかった。

「うーん……夢じゃないんだけどな。」

苦笑しつつそう言いながら、かほりをそっと抱き起こした。

かほりは、半分目を閉じて、無意識に雅人の首に両腕を回してしがみついてきた。

「……抱っこぉ……。」

むにゃむにゃと、かほりは寝言のようにそう訴えた。

よしよし……と、雅人はかほりの頭を撫でてから、かほりをぎゅーっと力を込めてだきしめた。

「はい、抱っこ。」

「……え?」

ぎゅーっと抱きしめられて、さすがにかほりは違和感を覚えたらしい。

「嘘!雅人!?え!?本物!?」

バタバタともがいて、かほりは雅人の腕から逃れた。

「うん。本物。来ちゃった。」

雅人は、飄々とそう言った。


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