何度でもあなたをつかまえる
雅人も馬鹿じゃない。

自分はやってないと言い張ったところで、もしも世間にバレたら……IDEAを窮地に追い込んでしまうかもしれない。

みるみるうちに、雅人の顔に動揺と後悔が広がるのを、りう子は黙って観察した。

しばらくの沈黙の後、雅人は泳がせた目を、膝に落として……、そのまま頭を下げた。

「ごめん。」

ふてくされてるのではなく、自分の軽率さを恥じ入っているようだ。

りう子は、ほうっと息をついた。

「うん。わかってくれたらいい。……やっとIDEAは日の目を見てるんだし……スキャンダルは困る。おおごとにならないうちに、手を切ってほしい。」

雅人は、うなずいて……それから、何となく感じた違和感を口に出した。

「……滝沢さんは、さ。かほりのために浮気をやめろって言わないんだね。IDEAのために、なんだ……。……てかさ……かほりは、なんで、何も言わないんだろう……。とっくに、気づいてるよね……。」

遠い目でそう言った雅人に、りう子はイラッとした。


なに!?こいつ。

かほりちゃんが、自分を放置してるって……拗ねてるの?

「言いたいのを、じっと我慢してるのよ。わかってるでしょう?かほりちゃんが、どれだけ尾崎の浮気に堪え忍んで来たか。」

りう子は、雅人を責めることに言葉を尽くした。

……でも、本当のとろころは……今、かほりがそれどころじゃない……ということも理解していた。


かつてのかほりとは違う。

心の全てを雅人が占めていた頃とは……。


りう子が触れなくても、もちろん、雅人にもわかる。

いや、気づかないはすがない。

何となく、満たさない。

何となく、淋しい。

そんな想いに気づくことが、増えてきた。

橘家に居場所がないわけではない。

かほりがコンサートの準備にかかりきりでも、舅の千秋はあいかわらず、折に触れては雅人をかまいたがる。

千歳も、雅人には気心が知れているから、優しい。

なのに、この想いは……どう説明をつければいいのだろうか。


子供が産まれたから?

……ゐねと半分、かほりの愛情を分け合ったから?

そんなの身勝手すぎる。

ゐねは、目に入れても痛くないほどに、愛しい愛しい我が子だ。

そのゐねに嫉妬するなんて、まったく、どうかしてる。

だけど……。
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