何度でもあなたをつかまえる
「……俺、かほりの気持ちにあぐらをかいてるつもりで、実は依存してたのかな。」

雅人のつぶやきに、りう子は唸った。


それって……こいつ、気づいてるのかしら。

何も言わないほうがいいのかな。

いや、でも……。

ああ!めんどくさい!


りう子は、苛立つ心を持て余した。

「あのさあ。尾崎。かほりちゃんは、あんたの母親でも、召使いでもないのよ?……かほりちゃんには100%の愛情を求めて、あんたは、どれだけかほりちゃんに返してあげてる?」


雅人には、りう子が何を言いたいのか、よくわからなかった。

子供が当たり前に母親に寄せる愛情と信頼を、雅人は持ち合わせていない。

雅人の母親は、夫の窮地に、他の男と逃げ出した……幼い自分も捨てて……。

結局、雅人の女性に対する不信感は、そこに起因するのだろう。



何はともあれ、雅人は、りう子の言うとおり、悪い仲間から距離を置こうとした。

本業が忙しい。

それだけで、理由は充分だろう。

雅人はもともと敵を作るタイプではない。

実際にIDEAが売れてきていることは明らかだ。

悪友たちは、次第に足が遠のいた雅人に対して、むしろ好意的だった。


しかし、……多少の関係を持ってしまった女性たちは、そうはいかない。

世間的には独身ということになっている雅人は、自らの若さと美貌のみにアイデンティティを見出すしかないモデル崩れ、売れないタレントの女の子の標的となった。

むしろ仲間を抜けたことで、その攻撃は激しくなったと言えよう。


結局、りう子の心配をよそに、もともと誘惑に弱い雅人は、悪い遊びから、女性との戯れへとシフトしただけだ。


そのうち、さすがにかほりも無視できないレベルになって来た。

……いや、正確には、衣類を洗濯してくれるお手伝いさんからの告発を無碍にすることができなくなってしまった、というべきであろう。

意を決したかほりは、雅人の遅い帰宅を待って訴えた。

でも雅人は鼻で笑った。

「珍しく俺と向き合ってくれたと思ったら、何?……結局、外聞悪いからなんだ。」

……酔ってるのかしら?

「珍しくって……普通に……仲良くしてるつもりなんだけど……。」

言いきらないうちに、かほりの頬が赤く染まった。

……ムラッと雅人の中に黒い欲望が沸き起こった。
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