何度でもあなたをつかまえる
雅人は助けを求めるように、かほりを見た。

かほりは、うつむいて……静かに泣いていた。


ああ……そうか……。

こうやって……ずっと……泣いていたのか……。

……気づかなかったな……。

どうせ泣くなら……俺の前で泣けばよかったのに。

いくらでも慰めてやるのに。


そう思ってから、……雅人ははたと気づいた。


……そっか。

慰めたところで、……その場限りじゃ……いい加減、かほりも……俺に期待しなくなるよな……。

いつの間にか、俺……かほりを追い詰めていたのか……。


立ち尽くす雅人に気づいて、かほりは慌てて涙を拭った。

そして雅人に謝った!

「ごめんなさい。……明日にでも、ゐねに言い聞かせるわ。」


ぶるっと、雅人の全身に震えが走った。


かほりは、千尋の前にしゃがんで、目の高さを合わせてから、千尋にも謝った。

「千尋くん、ごめんね。ありがとう。……でも、違うのよ。おじちゃまは、嘘なんかつかないわ。……おばちゃまが、悪いの……。許してね。」

本気でかほりは自分を責めていた。

雅人の浮気や遊びはともかくとして、子供達が雅人を敵視するのは、かほりの責任だ。

婿養子とは言え、一家の大黒柱の雅人を尊重してないということに他ならない。



……もう……やめてくれ……。

責めるなら、俺を責めろよ。

どうして、自分が悪いなんて思えるんだよ。

かほりは悪くないだろ。

頼むから、……やめてくれ……。


雅人は、ふらふらと、歩き出した。


どこへ行くの?

引き止めようとするかほりの腕を千尋が引っ張った。

驚いて振り返ると、目を真っ赤にしたゐねが、障子の隙間からこっちを見ていた。

なんとなくホッとして、かほりは千尋に頷いて見せた。

「ゐね。いらっしゃい。」

手招きすると、ゐねはおずおずと出てきて、かほりの足にぎゅーっとしがみついた。

「心配させて、ごめんね。でも、ママはパパを愛してるし、パパもママとゐねをすごーく大事に想ってくれてるの。ゐねのさっきの言葉で、パパ、すごく傷ついたのよ。……パパが悲しいと、ママも悲しいわ。」

かほりは、娘の髪を撫でながら、ゆっくりとそう言って聞かせた。
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