何度でもあなたをつかまえる
「……ええ。少し、お酒をいただきたいのですけど。見つくろってくださらない?……芋焼酎を。お願いしますね。」

それだけ言って電話を切った領子に、かほりは首を傾げた。

「ルームサービスじゃないですよね?」

領子はうなずいて、それから今度は部屋に備え付けの電話でお寿司を頼んだ。


5分かからずに、芋焼酎が届けられた。

銘柄は「村尾」。

かほりは知らないが、生産量が少なく「森伊蔵」「魔王」とともに3Mと並び称されるレアな焼酎だ。

領子も、そう詳しいわけではないが、何度か口にして気に入っている銘柄なので、安心してかほりに勧めた。

ポットのお湯が沸くのを待つつもりが……原酒を舐めると非常にまろやかで美味しくて……結局そのままちびりちびりとやり出した。


「離婚しても、好きなんです。……それは間違いないんです。私も……雅人も……。好きなのに……。なのに、どうして、離婚しちゃったんでしょうね。」

かほりはまだ酔いが回らないうちに、そんなことを言い出した。

「……お相手の雅人さんに、他の女性がいらっしゃいますの?……あのかた、女性問題には事欠きませんでしたわよね?」

領子にそう指摘されて、かほりは苦笑い。

「ええ。ほんっとに……浮気は日常茶飯事でした。……それでも、私は……私だけは特別だと知っていましたし、我慢もできましたが……娘を傷つけてしまって……。」

「……そうでしたか。ゐねさま……おかわいそうでしたね……。では、今は……落ち着かれてますの?」


領子は、雅人がいなくなってゐねが落ち着いたかどうかを聞いていた。

もちろんかほりには領子の意図が伝わっていたが、かほりは……じっと考えて……つぶやいた。

「……落ち着きました。驚くぐらい。……ゐねも……私も……。」


そうだ。

びっくりするぐらい、私も……落ち着いている。

淋しい……恋しい……もちろん、そんな気持ちも大きい。

でも、ようやく訪れた心の平安を感じているのも確かだ。

もう……浮気を疑わなくても済む……。

それに……こんなことを想うのって……性格悪いかしら。

間違いなく、私よりも、雅人のほうが……堪えてるから……。

……1人で……雅人が、やり切れない想いを抱えて……落ち込んでるのがわかるから……。
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