何度でもあなたをつかまえる
「強くなられたのね……かほりさま……。」

しみじみと領子に言われて、かほりは頬を染めた。

「……そうだといいのですが……優先順序が変わったのかもしれません。……ゐねや……自分自身を守るために……雅人を諦めてしまった……?」

自分で言ってて、苦いものが心に広がった。

結局、私は保身のために、雅人を切り捨てたのだろうか。

しょんぼりとうつむいたかほりに、領子はふっとほほ笑んだ。

「……母親なら当たり前ですよ。たとえ一時的に感情に流されて道を踏み外すことはあっても……子供を守るのは親の本能でしょう。」

「うん。……そうですよね。そのはずなんだけど……雅人は、そうは思ってくれないんだろうなあ。……雅人のお母さまは、リストラ中の夫と雅人を捨てて、他の男と逃げたんです。」

「あらあら。それでは、そもそも、価値観が違ったのね。……そういう男性は、幾つになっても、女性を信じられないか……行きすぎた母性を求めるのかしら……。」

価値観……。

かほりはため息をついた。

そう……ね。

どんなに好きでも、どんなに求め合っても……わかり合えない……。

「結婚して、ようやく、他人なんだな、ってわかりました。……生まれが違うとか、育ちが違うとか、ずっと母に言われてきましたが……一番違うのは、夫婦関係、親子関係の価値観だったのかもしれません。」

かほりは、そう言って、コテンと頭をテーブルにぶつけた。

領子は、ペリエをグラスに注いでかほりの前に差し出した。

「チェイサー、どうぞ。……そうね……でも、かほりさまは、なかなか頑固でいらっしゃるから。ご自分で納得されるまで、諦めませんでしょう?」

かほりはムクッと顔を上げて、領子の入れてくれたペリエを一気に飲み干した。

そして、領子に向かって、何度もコクコクとうなずいた。

「ええ。そうなんです。でもね、お義姉さま。私、変なんです。……雅人との離婚はあっさり決めたくせに……まだ雅人が好きなんです。」

真面目にそう言うかほりがおかしくて……領子は堪えきれず笑った。

「……笑われちゃった……。」

声をあげて笑う領子に、かほりはまたしょんぼりと落ち込んで、テーブルに突っ伏した。
< 177 / 234 >

この作品をシェア

pagetop