何度でもあなたをつかまえる
「領子お義姉さま~。」

青い顔で泣きべそをかいて、かほりが姿を見せた。

「あら。お化粧、すっかり落とされましたのね。……気持ち悪そうね……頭痛薬と……二日酔い用の胃腸薬……」

領子は頭痛薬だけをお願いしたのに、胃腸薬も一緒に届けられていた。

「ありがとうございます。……せっかくのお寿司、全部戻してしまいました。」

かほりはそう言って、領子の入れてくれたお水でお薬を飲み干した。

「……ちょっと……飲み過ぎましたわね。次は、お酒を控えるか……一泊するつもりでいらして。車が待ってるそうよ。」

「ありがとうございます。では、お義姉さま。……遅くまで、申し訳ありませんでした。……また……。」

後ろ髪を引かれているらしいかほりに、領子はほほ笑んでうなずいた。

「ええ。また。……お会いできてうれしかったわ。かほりさま。……お幸せをお祈りしていますわ。」

かほりの眉根にぎゅっと皺が寄った。

にじませた涙を振り払うように、かほりはお辞儀をした。



駅まで送ってくれたのは、領子の手配したタクシーというわけではなく……黒い社用車のようだ。

今回、サロンコンサートに招聘し、パーティーに招いてくださった文化団体の代表の秘書が助手席に座っている。

至れり尽くせりで、ありがたいわ……。

悪酔いの頭痛と嘔吐感に苛まれるかほりは、それ以上に考えようともせず、主宰者の好意に甘えさせていただいた。



新幹線に乗車するなり、かほりは眠りの淵に陥った。

他の車両と違って、グリーン車は客もまばらで静かだ。

かほりの睡眠を妨げるものは何もない。

久しぶりにお会いできた懐かしい義姉が、以前と変わらずに美しく毅然としていることがうれしくて……かほりは、ふわふわと心地よい気分でいられた。

お酒も、美味しいものも、懐かしい人との邂逅も、音楽も……雅人の喪失を一時的には忘れさせてくれる。

だったら、楽しいことだけしてたら……私は雅人を思い出さなくてすむのかしら。

恋しさも愛しさも、いつか遠くへ置き去りにできるのかしら。

てゆーか!

出逢って20年以上たつのに、どうしてこんなにも……いつまでも……諦めきれないんだろう。

掴んでも掴んでも、指の隙間を流れ落ちていってしまう。


……雅人……。

逢いたい……。
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