何度でもあなたをつかまえる
新幹線が名古屋駅に停車したとき、かほりは涙をまつげに滲ませて爆睡していた。

静かだった客車に、どやどやと数人が入って来た。

派手な身なり、華やいだ空気を身にまとった業界人とスタッフ……その中の1人が、不意に足を止めた。

IDEAとして名古屋に来ていた雅人だ。

「……かほり?」

まさか……こんなところで……。

「尾崎ー?」

茂木に呼ばれて、雅人は軽く手を挙げた。

「俺、こっち座るわ。」

「はあ!?お前、また団体行動を乱すようなことすんじゃねーよ。」

「別にいいじゃん。一条は今夜も名古屋に泊まるんだろ。……てか、しーっ。車内で騒ぐなよ。」

雅人はそう言って、そーっとかほりの隣の席に座った。

かほりは全く起きる気配がない。

珍しく、スースーと寝息をたてている。

顔色が悪い。

唇なんか、紫に近いし、なんか、震えてるみたいだ。

やつれて見える……。

って!

すっぴんじゃん。

何やってんの?

30才過ぎて、そんなちゃんとしたドレス着て、すっぴんって!

……体調……悪いのかな?


雅人は、ついついかほりの髪に触れて……そっと唇を付けた。

愛しくてたまらない……。

別れても……どれだけイイ女と付き合っても……かほりへの想いは特別なのかな。

ちぇ……。

雅人は、明るく色を抜いたパサついた自分の髪をクシャッと掻いた。

かほりと離婚してから、俺は俺なりに吹っ切ろうともがいてきたつもりだ。

モデルやタレントの合コンにも参加するし、アイドルと付き合ったりもしてみた。

でも結局……最初だけ。

1度Hしたら、もう相手に興味を失ってしまう。

容姿がどれだけ美しくても……ヤってしまえば、もうどうでもよくなってしまう。

かほりとのアンサンブルで得た脳髄まで痺れるような快感は……もはや望むべくもない……。

かほりと身体を重ねた時のあの心身共に満たされる幸せと、事後の余韻は……幻のように消えてしまった……。

いや……。

今、こうして逢えたのって……そういう巡り合わせなのかな。

もう一度……俺達……つきあわない?

なあ、かほり。

目を開けて、俺を見てくれよ。

笑顔を……見せてくれよ。


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