何度でもあなたをつかまえる
新幹線が新横浜に停車した。

かほりは、まだ眠っている。

雅人は、飽きもせずにかほりの寝顔に見とれていた。

決して美人ではないが……かわいらしい品のよさが、愛しさがいや増す。

その頬や髪にそっと触れては、かほりが目を覚ましてしまわないか、ドキドキした。

……起きて、雅人を見つけたら……嫌な顔をされてしまうかもしれない。

それとも、逃げてしまうだろうか。



品川駅で、茂木やスタッフのほとんどが降車した。

本来、雅人もかほりも品川駅のほうが便利なのだが……雅人は降車のアナウンスを無視した。

車内にはもう数える程しか客がいない。


「……かほり。終点だよ。」

そう声をかけてみた。

……自分でも意外なほど、緊張で声が震えた。

「ん……目……開けられない……キスして……」

完全に寝ぼけているようだ。

無意識にかほりは雅人の声を認識し、かつてのように甘えてそう言った。


ぐらぐらと、雅人の理性が足元から揺さぶられる。

かほりは、まだ俺を愛している頃の夢を見ているのだろう。

「……いいの?どこに?」

そっと人差し指で唇を撫でながらそう尋ねた。


ふふっと、かほりの頬がゆるんだ。


喜んでる……。

雅人はそっとかほりのまぶたに口づけた。


「もっとぉ。」

かほりの指が空をさまよう。

雅人はその手をそっと取って、指先にキスした。

かほりはずるずると腕を絡めるように雅人の首にしがみついてきた。

身体に力が入らないらしい。

苦笑して、雅人はかほりを支えるように抱き寄せると、唇に軽く口づけた。

「……吐きそう。」

不意にかほりはそう言って、パチリと目を開けた。

「え……。」

絶句する雅人を突き飛ばすように勢いよく身をよじり、かほりはお土産の入っていた袋を引っ張り出した。


……まさか……俺が嫌で吐き気をもよおした……わけじゃないよな?

背中をさすっていいものか……ためらう雅人をしり目に、かほりは中身を出してからになった袋を口もとにあてがって……震えてるのか、痙攣か……ビクビクと反っては、うつむいた。

だが、既に、吐くものが胃の中になかったらしい。


「吐けない……」

そう嘆いて、ぐったりと雅人に身を預けた。

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