何度でもあなたをつかまえる
「うん。あ。ほら。教授がさ、かほりのために作ってたチェンバロ、完成したんだぜ。弾く?」

雅人はそう言って、ドアを指さした。


「え……。あれ……作ったの?……雅人が?」

覚えてる。

パーツの1つ1つを、全て山賀教授が木を削って作ってくださっていた……。

「見せて……。」

そう言って、かほりはベッドから降りた。


……シングルベッド……。

かほりの目は、無意識に部屋の中をさまよい……女性の痕跡を探していた。

何もない……。

まあ、女性を連れ込むには、不向きな部屋よね。

もしかして、ソレ用のオシャレな部屋も持ってたりするのかしら。

……それとも……ココは倉庫かスタジオで……本当の自宅には女性が暮らしているのかもしれない。


ふらりと、かほりの足がもつれた。

あ……だめ……視界が……。


「かほり!……真っ青。貧血じゃない?」

倒れかけたかほりを、雅人が支えてくれた。

「……貧血……そうかも……。」

雅人は、再びかほりを抱き上げると、ベッドに戻した。

「とりあえず、寝たほうがいいよ。ゆっくり休んで。……またくしゃみ出ちゃうかな。コンビニでマスク買ってこようか……。」

「や……。行かないで。」

かほりは、思わず雅人の腕を引っ張った……けれど、力が入らない。

ぱたりと音を立てて、かほりの腕がベッドに落ちた。


「……かほり?」


引き留めた?

俺を?

そばに居て欲しいのか?

俺に?

……いいのか?


雅人の胸がドキドキしてきた。


かほりも、同じだ。

少女の時のままのときめきに、戸惑いながらも……かほりは震える声で言った。

「あの……逢いたかったの。ごめんなさい。……今さら……。」

勇気を振り絞って、素直にそう言った。

でも、すぐに、謝ることじゃないことを悟った。

雅人の瞳を見ればわかる。


……なんだ……。

私……まだ、愛されてる……。

雅人も同じ。

少年の頃と同じ瞳だ。

何も言わなくても、雄弁に伝えてくる。

かほりを、愛しい、尊い、欲しい……と……。


いや、正確には……さっきまでは、雅人も……怯えていた。

かほりに対する遠慮と、不安がいっぱいだった。

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