何度でもあなたをつかまえる
お互いに、未だに相手を想っているくせに……相手が自分を想っているかどうかは自信がなかった……というわけか。

まあ……そりゃそうだよな。

雅人の頬がふっと緩み、瞳が揺れた。

「……俺も……逢いたかったよ。」

そう言ってから、雅人は苦笑した。

「謝るのは俺のほうだね。ごめん。……かほりとゐね以上に大切なものなんかないのに……何やってたんだろうね。」


しみじみそう言った雅人が、かほりにはすごく新鮮に見えた。

かつてより浮ついた生活を送っていると思っていたのに……何だか想像と違うみたい。

「ゐねは元気よ。来年は小学生になるの。従弟の千尋(ちひろ)くんと仲良しで、本人同士も……家族も、ゆくゆくは結婚と思っているわ。」


かほりの言葉に、雅人は顔をしかめた。

「ちょっと待って!?何だよ、それ!まだ幼稚園児だろ?なんでそんなことになってんの!?」

声が大きくなった雅人に、かおりはくすりと笑った。


……このヒトは……本当に、何も変わってないのかもしれない。

私だけじゃなく、娘のことも、ちゃんと愛してくれているのね。

むしろ、ゐねにあれ以上嫌われたくなくて、姿を消しているのだろう。

離婚したって、親は子に会う権利があるのに、それすら求めなかった雅人が、かほりにはいじらしく、愛しく感じた。

「……ゐねは、あなたに似て、とてもチャーミングで可愛いの。美人になるわ。……幼稚園でもモテモテみたいで、千尋くんは心配でしょうがないのでしょう。」

「え……。俺に似てるんだ……。」

雅人は、ゐねはかほりに似た幼女に育っているものと、勝手に想像していた。

だからこそ、雅人にとって愛しくて愛しくてたまらないのに近づきがたい存在だった。

自分に似てると言われると、なかなか微妙な気分になってしまう。


……いや、冷静に考えればほめ言葉なのだろう。

容姿も頭脳も、俺に似て欲しいと、橘家では、冗談ではなくけっこう本気で言われていた。

ただ、性格だけは……雅人の気質を受け継がないで欲しい……とも。

動揺している雅人に、かほりはほほえんだ。

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