何度でもあなたをつかまえる
「心配しなくても、容姿と音楽の才能だけよ。性格は私より……りう子さんに似てるわ。とてもしっかりしているわ。お勉強は……私ね……。記憶力は悪くないけど、理解するのに時間がかかるみたい。」

「滝沢さん?……なんで……」

過去の経緯上、何となく未だにりう子に頭が上がらない雅人は、つい、たじろいだ。

「子供たちにとって、りう子さんも私もどちらも母親みたい。……ゐねは、一通りの楽器を上手に弾けるわよ。和楽器もバロックも。特にヴァイオリンが好きみたい。」

「へえ……。そっか……。」

一緒に演りたいな……。

そんな願いがむくむくと大きくなるのを、無理矢理押さえ込んだ。

かほりもまた……いつか音楽が、雅人とゐねを結んでくれることを密かに期待していた。


「あの……お水くださる?頭痛薬はあるから……。」

そう言って、かほりはキョロキョロと周囲を見回した。

「あ!ごめん!荷物、ほとんど、スタッフに預けて来ちゃった。明日、滝沢さんに渡すって言ったよ。これだけはあるけど。」

雅人が差し出したのは、小さな白い革のハンドバッグ。

中には、お財布と充電の切れた携帯電話とハンカチぐらいしか入ってない。

「お化粧道具もないわ……あ!ああっ!」

思わずかほりは両手で頬を押さえた。

すっぴんなことに気づいて、恥じ入ってるらしい。


今さら……。

くすっと、雅人は笑った。

「いいじゃん。かわいいよ。まあでも、顔色、悪いなあ。待ってて。二日酔いの薬ならあるよ。寝てて。」

雅人はそう言って、ガチャガチャの棚を漁った。


……二日酔いって……バレてるのね……。

かほりはしょんぼりして、おとなしく雅人のベッドに仰向けに寝転んだ。

掛け布団を鼻のあたりまでかけると……懐かしい匂い……。

香水でもシャンプーでもない、雅人自身の香りに、かほりは胸がいっぱいになった。

好き……。

やっぱり、好き……。

この想いだけは……この胸のときめきだけは……真実だわ。


「お待たせ。……大丈夫?つらい?起き上がれる?」

雅人が水のペットボトルと錠剤を持ってきてくれた。


もちろん簡単に起きられる……が……かほりは、震える声で言った。

「……つらいの。……ちょっと……無理かも。……あの……飲ませて?」

途中で恥ずかしくなってしまったかほりは、そう言って、掛布団を額までかぶった。

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