何度でもあなたをつかまえる
「隣の部屋だよ。なるほど。断片的には覚えてるんだ。……俺のことは?」

覚えてる?

後悔してない?

……変わらず……愛してる?


ともすれば臆病になりそうな心を奮い立たせてそう聞いた。

かほりは、雅人の背中に回した手に力を込めた。

「……大好き。」


雅人の胸が甘い幸せで満たされる。

……ほら……。

こんな風になるのは、かほりだけだ。

ヤった後は、どうでもよくなるのが常なのに。

かほりは……かほりだけは、違う。

「俺も。大好き。」

雅人は、そう言うと、かほりに深くキスした。


再び身体を重ねて……ゆるゆると、動きながら話をした。


「……名古屋から新幹線に乗ったら、かほりが寝てたんだよ。声かけても起きないし。不用心だよ。……どこ、行ってたの?」

「京都。小さなサロンコンサートの後、パーティーで領子(えりこ)お義姉さまにお会いしたの。それで、お部屋でお酒を飲んで……あ……。」

かほりは、昨日は思い当たらなかったいくつもの不自然に気づいた。

……もしかして……もしかしなくても……あの、竹原代表が……お義姉さまの……恋人?

えーと……。

かほりは、改めて代表の顔を思い出した。

すっごく素敵な紳士だったわ。

……てゆーか、美男美女でお似合い過ぎて……もともと、お兄さまのほうがイレギュラーだったのかしら。


「へえ……京都……。いいなあ。サロンコンサートって、贅沢だよな。チケット代全然取れないしペイできないのにさ。……かほりの演奏……俺も聴きたいな……。」

本気でそんなことを言う雅人が、たまらなく愛しい。

「山賀教授のチェンバロ……弾かせてくれるんでしょう?」

かほりがそう尋ねると、雅人はうれしそうにほほえんだ。


「あ。でも……さすがにそろそろ帰らないと……。」

2人でいると、あっという間に時間が過ぎてしまう。

まるで中学生か高校生の時に戻った気分で、かほりは時計を見上げた。


雅人は、目に見えてしょんぼりしている。


次、いつ逢える?

……かほりにそう尋ねていいものなのかどうか……。


かほりは、まだ臆病モードの雅人の肩にそっと頭を預けた。
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