何度でもあなたをつかまえる
「……帰らなきゃって理性では思ってるんだけど……離れたくない……。……また、来ていい?」

雅人は、ぱあぁっと顔を輝かせて、うんうんと何度もうなずいた。

「あ。じゃあ、これ。あげるよ。いつでも来て。いや、言ってくれたら迎えに行く。タクシーだけど。」

そう言って、鍵の束をかほりに手渡した。

「……鍵……何でこんなにあるの?」

「えーと、玄関の鍵が3つと楽器の棚の鍵が5つと、これとこれがセコム、……あ。この2つは返してね。」

そう言って、雅人は鍵の束から事務所の鍵と、……おもちゃのような小さな真鍮の鍵を取った。

「え……その鍵……ゐねの?」

かつて、ドイツで買った錠前の鍵の片割れだ。

ゐねのお守りにするって決めてたのに……どうして、雅人が?

驚くかほりに、雅人は苦笑して肩をすくめた。

「……ゐねは……俺に関するものは全部排除したかったみたいだよ。ゴミ箱に捨てられてたのを……千尋くんが拾ってくれたんだって。……滝沢さんがくれた。さすがに、捨てられなくてね。」

「そうだったの……ごめんなさい、私……知らなかったわ……。」

そんなにも、娘の闇が深いなんて……。

こんなにも、雅人を……傷つけていたなんて……。

もう……これ以上……大切な2人を苦しませたくない。

でも、どうすればいい?

雅人と再婚すれば……ゐねをさらに追い詰めて傷つけてしまうかもしれない……。

かと言って、雅人を……あきらめきれない。

何度別れても、何度裏切られても、何度思い切っても……どうしても、雅人のことが好き。


「……げ。滝沢さん、キレてる……。」

携帯電話の電源を入れた雅人が、画面を見て顔を引きつらせた。

「心配して電話くださったのね……。あ……、私の携帯、充電させてもらえばよかったわ。……電話したほうがいい?あ!」

タイムリー……というか、たぶん夕べから何度も何度も何度も……数え切れないほど繰り返して電話してくれてたのだろう。

雅人はばつが悪そうに、画面をかほりに見せた。

<滝沢さん携帯>

そんな文字が点滅し、震えていた。


雅人は渋々電話に出た……スピーカーで。

『やっと出た!ちょっと!?尾崎、どういうつもり!?かほりちゃんは無事なの!?』

けたたましい声でりう子が喚いていた。
< 195 / 234 >

この作品をシェア

pagetop