何度でもあなたをつかまえる
「ごめーん。かほりの携帯、充電切れだったんだって。これから送ってくよ。」

「……あの、りう子お義姉さま、ごめんなさい。ご心配をおかけしました。」

雅人に続いて、かほりも謝った。

電話の向こうで、りう子がはーっと大きく息をついた。

『……うん。心配した。……とりあえず、帰ってらっしゃい。1泊はごまかせても、これ以上は無理だから。……ゐねちゃん、強がってるけど淋しがってるから。』

ズキンと、胸が痛んだ……かほりも……雅人も……。

お互いに見合わせた顔が泣きそうに歪む。

……どうすればいいのだろう。


『あ。尾崎は来なくていい。かほりちゃんをタクシーに乗せて。……すぐ、そっちに配車するから。じゃ!』

電話が切れた。

「……来なくていい、ってさ。」

傷口をえぐられた雅人が自嘲的に笑った。

「……ごめんなさい。」

「かほりが謝ることじゃないよ。自業自得だろ。……ゐねが心配だな。頼むよ。」

雅人はかほりの手をとって、額や頬に何度も口づけしながらそう言った。

くすぐったいし、幸せだけど……せつなくて……かほりの目に涙がにじんだ。



りう子の手配したタクシーは本当にすぐにやって来た。

……どこかで待機してたのかしら。

「明日でも明後日でも、……いつでもいいから、来て。留守でも待ってて。」

雅人は本気でそんなことを言っていた。

毎日でも逢いたい。

出逢った時から、ずっとそうだった……。

雅人のデビューでリズムが狂い、私の留学で歯車が噛み合わなくなった。

結婚は、本当に無理矢理過ぎたのかもしれない。

妊娠という手段を使って、2人の関係を修正せずに、強引に一緒になってしまった……そのひずみが離婚だったのかもしれない。


今度は、焦らず、自然に……寄り添うことができるだろうか……。

車窓の夜景がぼんやりと涙に滲んだ。



帰宅すると、ゐねが半泣きで……怒っていた。

「ごめんなさい。淋しい想いをさせて……。ごめんね。」

かほりはゐねを抱きしめて何度も謝った。


心配そうな両親には……時系列を歪めた事実を話した。

「京都で……サロンコンサートの後のパーティーで、領子(えりこ)さまに、偶然お会いしました。ホテルに部屋をとっていただいて、お酒を飲みながら、ゆっくりお話してまいりました。」
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