何度でもあなたをつかまえる
「代表が竹原氏やな。東出さんに振ってほしいねんて。既に3年先まで予定埋まってるってお断りしたんやけど、その後でもいいらしいわ。……合間にねじ込むか、キャンセル待ちでもいいそうやけど。条件は破格や。かほりと共演してほしいらしいわ。ついでに、それまでに、東出さん抜きでも、アンサンブルもご希望やねんけど、……それも、かほり込みの話や。」

空は、苦笑まじりにそう言ってから……真面目な顔をした。

「大丈夫?セクハラとかされへんかった?」


かほりは、唖然とした。

……え……それって……ええ?

そらくん……心配してくれてるのね……。

少し笑って、かほりは首を横に振った。

「大丈夫よ。……心配してくれて、ありがとう。……いつも……。」

本当に……いつも……親身になってくれて……。

まだ心配そうな空に、かほりは改めてしみじみと感謝の念でいっぱいになった。


帰国してからは、ドイツにいた頃のように毎日顔を合わせるわけではない。

でも折に触れ、「おかん」そのものの気遣いを見せてくれる。

雅人と離婚してからも、かほりには態度を変えることなく節度ある優しさを注いでくれているし、娘のゐねを遊びに連れて行ってくれる。

何となく……ゐねは、空に父性を感じているのかもしれないし、空も我が子のように可愛がっている。


かほりは、声のトーンを落として打ち明けた。

「……よくわからないんだけど……兄と離婚された領子(えりこ)さんが、竹原さんと懇意みたい。……それで、私にお仕事をくださるつもりじゃないかしら。」


すると空はホッとしたらしく、肩の力を抜いて、息を吐いた。

「そっか……。よかった。……かほりが、何か、嫌な想いしてへんか思て……。」

そして、空は改めてかほりを見て、首を傾げた。

「むしろ、何か……ほわほわしてる?……イイ事あった?」


かほりの頬がうっすらと赤く染まった。


空の眉毛がぴくりと動いた。


……男か!

胸がざわつき始める。

竹原氏ではないんだよな?

じゃあ、誰だ?

京都で、……誰かに一目惚れ?

おいおいおいおい。


「え……男?京都で?……マジで?……紹介された?一目惚れ?」
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