何度でもあなたをつかまえる
ゐねのために断わっていた、宿泊の必要な遠方での夜の演奏会にも出演した。

招聘されれば海外にも赴いた。

中学生になったゐねが、夏休みを海外で過ごすようになると、かほりもまた海外で長期の仕事を入れ始めた。

……ゐねは知らなかった。

かほりは、東京を離れて雅人と落ち合っていたことを。



「ゐね?……寝たのかい?」

祖父の千秋の問いかけに、ゐねは寝落ちしかけていたことに気づいた。

……起きてるわ……そう言ったつもりが、言葉にならなかった。

寝てるんだ……私……。

「……疲れたのでしょう。かわいそうに。……明日の告別式……ゐねだけでも参列できるといいんですけど……」

かほりの言葉に、ゐねの耳と脳が拒否反応を起こす。

絶対、嫌~~~~!と。


「……そこまでは、かわいそうだろう。……お棺に……ゐねの写真も入れるそうだよ。……ずっと送ってたのかい?」

げ!

……ゐねの意識が呼び戻された。

まさか自分の写真を副葬品にされるなんて……。

ゐねは、亡くなった祖母に愛されていたことよりも、何だか縁起が悪い気がして、あまりイイ気がしなかった。


「ええ。……結婚してから、ずっと……なかなかお会いすることはできませんでしたので、その分、お手紙とお写真はマメにお送りしてました。離婚してからも……ゐねが孫であることには変わりませんから。」

「そうかい。……たぶん、喜んでらっしゃっただろう。」

しみじみとそう言ったあと、しばらくの沈黙が続いた。

おもむろに、千秋が口火を切った。

「……そろそろ……再婚してもいいんじゃないか?」


かほりは、どう返事していいかわからず……うつむいた。

千秋は声のトーンを落として言った。

「ゐねも来年は二十歳(はたち)になる。もう、大人だ。……ボストンに行く前に、話してみなさい。」

「……ずっと……そう思っていました。……でも……、いざ、その時が近づくと……」

かほりのためらいがよくよく理解できる千秋は、黙ってうなずいた。

でも、ゐねの頭の中には疑問符が飛び交っていた。


ずっと?

ずっと、付き合ってる男性がいるの?

……誰?
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