何度でもあなたをつかまえる
もちろんりう子にはすぐバレたが、見て見ないふりをしてくれた。

次第に便宜を図ってくれるようになり、暗黙のうちに協力者になってくれている。


もろ手を挙げて喜んでいるのは、IDEAのリーダーの一条。

これまで曲作りに非協力的だった雅人を巻き込めるし、かほりという一流のチェンバリストをバックメンバーのように使えることは強みだった。




「てゆーか、そんなところまで俺に似なくてもいいのにな。」

自虐的なことを繰り返す雅人に、かほりはちょっと口を尖らせた。

「開き直ってるみたいに聞こえるんだけど。」

「いや、ごめん。もう、浮気しない。マジで。かほりだけだから。ね?わかってるよね?ね?」

慌てて雅人はかほりに謝った。

かほりは苦笑して見せて、それから伏し目がちに言った。

「……似てるわよ。家族観が歪んでるところが。……あの子、昔から、うちは仲良し家族ってアピールをやたらするの。……父親を自分が追い出した負い目があるんだと思う。」

「……ごめん……。」

雅人がしょんぼりとうなだれた。

いつになくへこんでいる雅人がかわいくて、愛しくて……かほりは雅人を抱きしめた。

雅人は、かほりの胸に顔をぐりぐりと押し付けた。


しばらくしてから、ポツリと雅人が言った。

「ゐねの間男が年上の男だったら……俺のせいだよな。ファザコンってやつ?……トラウマだよな……。」

「……そうかもね。雅人も、マザコンこじらせてるものね。……お義母さま、ずっと悔やんでらして……私にも謝られていたわ。」

辛辣なことを、かほりはやんわりおっとり口にした。

雅人は、真摯に受け止めて、また落ち込んだ。

かほりは気づかないままに追い討ちをかけた。

「雅人は、お義父さまとお義母さまが縒りを戻されるのを、祝福せずに、他人事として遠ざけたわよね。……ゐねはどう思うのかしら……私たちのこと。」

「……因果応報ってやつか。」

雅人はそうつぶやいて、不安と悲しみを振り払うように頭をぶるぶる振ると、再びかほりを組み敷いた。


……やりきれなさも、最後まで許してやれないまま母親を失ってしまった後悔も……かほりの心と身体に放出した。





その頃、2人の愛娘は、東京の東出邸でヴァイオリンのレッスンを受けていた。

いつも熱心に練習してくるゐねに、珍しくミスタッチが目立つ。
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