何度でもあなたをつかまえる
真夏でも、サンルームはエアコンで適温に保たれている。

日が暮れて薄暗くなってくると、自然の風も心地いい。

電気を煌々とつけると、広い庭の中で空中庭園のように浮き上がって見えた。


「……え……ほな……葬式……行ったん?」

空の入れた紅茶を楽しみながら、ゐねはうなずいた。

「うん。行った。けど、入れなかった。遠巻きに、出棺を見送ってきた。」

「……殊勝なところもあるんや。」

ワガママなほどに自分の想いを主張し、思い通りに振る舞うゐねらしくない。


「よくわからなくて。……お棺にね、私の写真を入れるって仰ってて……そんなに想ってくださってたなら……どうして逢いに来てくださらなかったのかしら。」

ゐねの言葉に、空は苦笑した。

「想ってるから押しかけられへんのやと思うけど。……いっちゃんのオヤジかてそやろ。これ以上、いっちゃんを傷つけたくないから、離婚してんろ。」


未だに空は、雅人のことをよく想っていない。

2人が離婚した時には、あわよくば……と期待もしたが、かほりは、誰に対しても心を閉ざしてしまった。

あの時強引に迫っていたら、何か変わっただろうか。

……いや。

かつて、ドイツで、祭りと酒の勢いに乗じて無理にかほりに迫ったことがあった。

あの時全身全霊で拒絶され、逃げられた記憶は、空の中から消えない。

もう二度とかほりを怖がらせたくないし、嫌われたくない。

だからと言って、諦めることもできないまま……かほりの子供が来年は成人する……。

過ぎてみれば、あっという間だった。

この歳まで自分が未婚でいるとは想像もしてなかったし……かほりの子供に懸想されることになるなんて……。


「だったらテレビに出るような職業、やめてほしかったわ。目障り。……あのヒト、未だに、ママのこと好きなのね。ゾッとする。」

ゐねは不愉快そうにそう吐き捨てた。

「自分の父親のことをそんな風に言うもんじゃないで。」

やんわりたしなめながら、空は動揺していた。

いつまでも思い切らない自分もしつこいが……、かほりも、雅人も……しつこすぎるだろ。

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