何度でもあなたをつかまえる
「うーん。それって……白い飯?」

「飯だけでは飽きるだろ。」

「ほな、先生の好きなクロワッサンは?」

「……飽きるな。確実に。それなら、塩と飯のほうがいい。」

「飯に、何かご飯の友と、お味噌汁も付けたら?」


空と東出のやり取りを聞いて、ゐねはうなずいた。

「お味噌汁。」


ハッとしたように、空が同調した。

「なるほど!慣れ親しんだ手作り味噌のお味噌汁やったら、毎日でも毎食でも美味しいな。」

「味噌汁か……。確かに、世界中どこに居ても、飲みたくなるな。……明日の朝、作ってくれ。」

東出は納得して、飲みたくなったらしく、空にそう頼んだ。

うなずく空に、ゐねはニッコリとほほえんだ。

「私にも作ってください。……そら先生のお味噌汁、大好きですわ。我が家とは少し味が違うようですが……お味噌が違うのかしら?」

「まあ……気分と素材と季節で、ブレンドしてるしなあ。」

信州味噌、仙台味噌、八丁味噌、京都の白味噌、薩摩の麦味噌、静岡のあいじろ。

説明したところで誰も興味がないだろう……と、空はそれ以上は言わなかった。

……味噌の種類の話に気を取られたわけではないが、その前にゐねがお願いし意味合いについては、敢えて無視した。


まさかとは思っていたが、このお嬢さまは、千尋くんから俺に乗り換えようとしてるのか……。

浮気でも、まずいのに……それは、ダメすぎる。

かほりに顔向けできないどころか、土下座しても足りない。

やばい。


このままスルーしようとすましている空をあざ笑うかのように、東出夫人が言った。

「俺の味噌汁を作ってくれ……って言うのが、プロポーズの男性もいらっしゃるようだけど……逆は珍しいわね。」

……スルーしてくれないのか。

勘弁してくれよ……。


「私、学校の調理実習でしかお料理したことありませんもの。……指を怪我したら大変ですから。」

しれっと、ゐねは言った。


「そらもプロのヴァイオリニストだがな。」

東出が空の肩を持ってくれたようだが、空はただ苦笑しかできなかった。
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