何度でもあなたをつかまえる
「こんなこと言ったら、あいつらに怒られるかな。……やっぱり、俺、かほりとのセッションが一番好きみたい。」

2人で毛布にくるまって、ワインを飲みながら、雅人はそう言ってくれた。

あいつら、は、IDEA(イデア)のメンバーを指すのだろう。


「あら、そう?うれしいわ。でも、私よりお友達を優先したじゃない。」

今さら責めてるわけじゃない。

からかうようにそう言ったかほりに、雅人は口をとがらせた。

「天秤にかけたわけじゃないよ。……自立したかったんだよ。成功したら、手っ取り早く稼げると思ったし。」


かほりにふさわしい存在になりたい……ずっとそう思っていた……。

……まあ、芸能界で多少売れたところで、上がるのは知名度だけで何のステイタスにもならないかもしれないけれど。


「あてが外れた?……別にいいんじゃない?アイドルより地味だけど、バロック音楽で地道にやっていけば。雅人なら、引っ張りだこよ。」

顔も、腕も、性格もいい。

難があるとすれば、女性関係ぐらいのものだ。

男ばかりのアンサンブルとか、年配女性となら、うまくやっていけるんじゃないかしら。


かほりは、何も考えずに、励ましたつもりだった。


でも、それはかほりの願望。

そもそも雅人の芸能界での成功なんてこれっぽちも望んでなかったし、自分のそばで自分と同じ音楽を奏でていてほしい……。


かほりのエゴを目の当たりにして、雅人は苦笑した。


嫌悪感も失望もない。

むしろ、当たり前だろうと思う。

かわいい、とすら感じた。


でもな……俺は、アイドルでもなんでも、自力で成功して、かほりの隣に立ちたかったんだよ。

かほりの実家の力を借りるんじゃなくて、ゼロから、自分で。



雅人は去来した挫折の苦々しさに、ワインを飲み干した。





1月3日にアンナが帰って来た……男を連れて。

「Kaho~ri!!Masa~to!! I brought Japanese special guest!!Gorgeous guy!!」

ずいぶんと浮かれた帰還に、かほりは眉をひそめた。


自身も、雅人を泊らせてるので文句は言えないが……かほりは、見知らぬ男性が同じ家に居ることに慣れず、完全に委縮してしまう。

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