何度でもあなたをつかまえる
不意に携帯が震えた。


まさか……と、半ば祈るような気持ちで電話に出る。

旅行社から、急なキャンセルが出て、飛行機に空きが出たという知らせだった。


「2時間後……ですか。」


ココから駅まで徒歩10分。

駅から電車で15分で空港に到着する。

余裕で間に合ってしまうじゃないか。

参ったな。


旅行社の女性が、返答を催促する。


雅人は、これまでずっとそうしてきたように、成り行きに任せることにした。


もともと荷物なんて、たいして持ってきていない。

最低限の着替えと、リコーダーと、オーボエ。

それにミュゼットが加わるだけ。


まるで大道芸人だな……。


……いや。

大道芸人になるために帰国するんだ。


IDEAをテレビに出してくれる事務所はもうない。

自分達で、小屋を探して……小屋がなければ、野外ステージでも、パチンコ屋の営業でも、日本中回って、手売りすることになるかもしれない。


……俺はともかく、あいつら、耐えられるかな。



他のメンバーから見れば、雅人は飄々とつかみどころがなく、いつIDEAを辞めると言い出すかと心配されていることもつゆ知らず、雅人は仲間を想った。


既に頭の中のかほりは、過去のものになっていた……。





荷物をまとめて、ダウンも着てから、かほりの部屋の戸をそっとノックした。

返事はなかった。


拗ねて泣いてるのか……泣き疲れて寝てしまったのか……


いずれにしても、今の雅人には、かほりの許可なしにドアを開けることはできなかった。


ただ一言「どうぞ」の言葉をしばし待って……雅人は、踵を返した。




仕方ない。


Que Sera Sera

なるようになるさ




第1章 了



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明日から第2章に移ります

舞台も日本に移動して……
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