何度でもあなたをつかまえる
「まさと……。逢いたい……。」

ずっと我慢していた想いが溢れ出す。


逢いたい……。

雅人の腕に抱かれたい。

甘い吐息まじりの愛の言葉を聞かせてほしい。

全身で、感じたい……。


『あ、よかった~。クリスマス、そっち行っていい?』

飄々と、雅人はそう確認した。

かほりは、驚き過ぎて、言葉を失った。


ケルンに来る?

雅人が!?

私に逢いに来てくれるの!?


『かほり?聞こえてる?』

「うれしい……。来て。クリスマスと言わず、来週、来ない?11月11日からカーニヴァルが始まるの。」

ケルンのカーニヴァルは2月まで続く。

……雅人が独特な異国のお祭り騒ぎにハマれば……ずっと滞在は無理でも、その後も、来てくれるかもしれない。

かほりはそんな計算も込めて、熱心に誘った。

『んー、来週は、ちょっと無理かな。バイトあるから。演歌歌手のバックバンド。』

雅人の返答に、かほりの心がズンと重くなった。

……演歌歌手の……バックバンド……?

くだらない……そんな、くだらないことをするために、日本に残ってるなんて……。



こみ上げてくる暗い情念を持て余して黙ったかほりに、雅人は慌ててつけ加えた。

『いや、もう、来週が最後。ほんとに、もう、しないから。……事務所、クビになったんだ。俺たち。』


雅人にしては珍しく、落ち込んでるのが伝わってきた。


……クビ?

解雇されたってこと?

ドキドキしてきた……。


かほりは、胸に手をあてて、自分を落ち着かせようと深呼吸した。

「……残念だったわね。でも、いい経験できて、よかったね。楽しかったでしょう?アイドルなんて、なかなかなれるもんじゃないわよ。」

『アイドルとか。よせよ。恥ずかしい。……まあ、アイドルって柄じゃなかったな。』

気恥ずかしそうに雅人はそう言った。
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