何度でもあなたをつかまえる
それがわかっていても、雅人は、かほりに対してだけは……自分勝手なセックスはできない。

もしかほりが嫌がったら……雅人は立ち直れないほど、深く傷つくだろう。

雅人にとって、かほりはあまりにも特別な存在だから……。

身体を開き、雅人に全てを委ねてくれるたびに、雅人は身も心も悦びに打ち震える。

思春期から、とても数え切れないほど抱いてるのに、……決してそれは当たり前じゃなくて、いつも奇跡のように尊く感じる。

かほり以外の女なら1度で充分、2度めの行為も、逢瀬もめんどくさくなるのに……。


……実際、婚姻関係を結んだ妻のりう子とも……それっきりだ。



「シャワー、浴びたい。」

寝起きなのに、何度もイカされて、身体が動かない……。

染みついたいろんな体液の匂いが気になって仕方ないかほりがポツリと訴えた。

「俺も。一緒に行こっ。……ここ、バスタブもある?」

かほりがようやくゆるゆるとうなずくと、雅人は元気いっぱいに跳ね起きた。

「お湯入れてくる。一緒に入ろう。」

意識してるのか、無意識なのか……雅人はやたら「一緒に」と言った。

うれしいけれど、一瞬も離れていたくないかほりは、ベッドからのっそりと降りて雅人の背中を追おうとした。

でも……腰が立たない……。

赤ん坊のように、四つん這いで後追いする。


「……何?一緒がいいの?……手の掛かるお姫さまだなあ。」

雅人はくすくす笑って、かほりを抱き起こすと、そのままお姫さま抱っこで運んでくれた。


バスタブはすぐにお湯で満たされた。

備え付けの入浴剤を入れて、雅人はかほりを抱いたままバスタブに浸かった。

あったかいお湯がじんわりと身体に染み込んでゆく。

ぼーっとしていた頭も、だんだんクリアーになってきた。


「……山賀教授は、お元気かしら。」

今、雅人はどこに住んでるの?……かほりは、婉曲的にそう聞いていた。

雅人は苦笑した。

「暇そうだよ。チェンバロをパーツの削り出しから自分で作るんだって。完成したら、かほりに弾いてほしい、って。……表立って責めないけど……俺を非難してらっしゃるよ。」

グッジョブ!

かほりは、心の中で敬愛するお茶飲み友達の教授にお礼を言いたくなった。

たぶん教授は、雅人がかほり以外の女性と結婚すると聞いて、チェンバロを作り始めたのだろう。
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