何度でもあなたをつかまえる
でも、まあ……事務所の意向も理解できる。



雅人は、大学に入ってすぐに仲良くなった友達と3人で、バンドのようなことを始めた。

もちろん、ただの遊びのはずだった。

なのに、ジャンル不問の音楽コンクールに出場して、あっさり入賞。

有名な事務所にスカウトされ、とんどん拍子にデビューを果たしてしまった。

ただ、コンクールではエレキギター、アコースティックギターを演奏していたにも関わらず、デビュー時にはハンドマイクを持たされて、簡単な振付で踊りまで強要された。

アーティストではなくアイドルとして、事務所は彼ら……IDEA(イデア)を売り出した。


……こんなはずじゃなかったんだけど……。

メンバーの誰もが、時には首を傾げながら、敷かれたレールをまっすぐ進んだ。


かほりなら後悔と自己嫌悪でつぶれてしまいそうな環境を、雅人はむしろ楽しみ始めた。


「だって芸能界だよ?有名人にいっぱい会えるんだよ?おもしろいじゃない。できるとこまで、やらせてよ。」

恋しい男にそう頼まれて、かほりは何も言えなくなってしまった。



もちろんかほりは、芸能界入りを、最初から反対した。

雅人には、才能がある。

技術もセンスも、本腰を入れさえすれば、プロの音楽家として生きていけるレベルになれる。

……口惜しいけれど、かほりなんかより、はるかに上だ。

なのに、どうして、こんなことになってしまったんだろう。



そもそも、件(くだん)のコンクールだって、もともと雅人はかほり達古楽器教室のユニットで出場するはずだった。

なのに、メンバーの女の子2人が雅人に色目を使って……それぞれが、こっそりと、雅人と関係したらしい。

2人とも、かほりに対しては罪悪感を抱いていたようだが、お互いへの牽制と挑発は日増しに激しくなり……とうとう、かほりも知らないふりを続けることができなくなった。

結局、ユニットは解散、コンクールのエントリーもキャンセルしてしまった。


……思えば、あの時、雅人と2人だけでも出場を断行すべきだったのかもしれない。


恋人に手を出した2人に対する後処理、つまり報復をかほりが画策・実行している間に、雅人はさっさと、大学の友人とそのコンクールにエントリーし直してしまった。

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