何度でもあなたをつかまえる
体の変調に気づいたのは、りう子ではなくメンバーの茂木だった。

「滝沢さんさあ、ダイエットでもしてんの?」

夕食を振る舞ってる時にそう問われて、りう子は首を傾げた。

「そんなつもりはないけど……あ、でも、最近、接待で飲み過ぎてたせいか、胃の調子が悪いわ。」

りう子の柔らかい語尾には何の疑問も不安もなかった。


そばで聞いていた雅人がやけに驚いた顔で振り向くまでは。


「……そういや、さっきも吐きそうになってなかった?」

「さっき……。あー、揚げ物、もともと苦手なの。でも、君らはガッツリ食べたいでしょ?」

一条の問いにそう答えながらも、雅人の顔に浮かんでる何とも言えない表情がひっかかった。


「うん。滝沢さんの唐揚げおいしい。毎日でもいいよ。」

茂木のおねだりを笑顔で受け流しながら……りう子の中にも、疑問が生じ始めた。

揚げ物だけじゃなくて、このところ、ご飯の炊ける匂いでも気持ち悪くなってる気がする。

……え?

これって……まさか……まさか……。


雅人と目が合った。

何か言いたげな様子に、りう子の片頬が引きつった。


手帳を繰るまでもない。

生理が止まっている。

りう子の生理は、これまでほとんど狂うことなく28日周期だ。

なのに、今月は……3週間も遅れていることになる……。



妊娠した……。

尾崎の子を……。



りう子は、思わず頭を抱えた。






「ごめん……。」

一旦お開きになって3人がりう子の部屋を辞去してから、しばらくして雅人が1人で戻って来た。

「謝る必要はないんじゃない?尾崎の責任ってわけじゃないし。」

りう子はむしろ自分の軽率さを責めていた。

でも、そっけなさが却って雅人の心を責め苛んだ。

「だって、滝沢さん、初めてだったじゃん。……俺の子だろ。俺にも責任ある。……明日、病院、ついてくよ。中絶同意書、書くから」

「ちょっと待って!何で、中絶することになってるの!?私、カトリックよ!?堕胎なんて、できないわよ!……望んだ妊娠じゃないけど、授かったからには、産むわよ。」

雅人の言葉を遮って、りう子はきっぱりとそう言い切った。

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