何度でもあなたをつかまえる
……いや。

雅人は無意識に、りう子に逃げ道を与えたのだろう。

尾崎雅人という男は、そういう男だ……。

何でもできるイケメンなのに……幼少期のトラウマのせいか、どこか投げやりで、物事にも人にも執着しない。

まるでクラゲのようにふわふわと漂っている男。

タレントとして管理していても、いつの間にか姿を消し、いつの間にかまた合流してる……ちょっと厄介な存在だ。


ましてや夫になんて……無理だ。

放し飼いで猫を飼う程度の認識でいいだろう。

りう子はそう納得していた。



だから、実際に入籍しても、IDEAの一条と茂木にすらまだ言ってない。

一応、雅人は足繁くりう子のもとにやって来るし、食べ物を受け付けないりう子のために腐心してくれているのもわかる。

産婦人科事情についても、ネットで調べてくれたようだ。


結局、両親への報告ついでに帰郷して、実家近くの産婦人科医院で出産予約をしてこようと決めた。


わずか10枚だけ印刷した結婚報告の葉書の1枚を実家に送って、父親に電話で怒鳴られ、母親に号泣されたけれど……電話で雅人と話をすれば、納得せざるを得なかったようだ。

雅人には、人たらしの才能があるというか、初対面でも、すぐに誰とでも仲良くなれる不思議な魅力がある。

今回も、雅人の如才なさに救われた……のだが……。




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「……まさか、りう子、まさか……」

電話の向こうで、母親の声が弱々しく変わった。

りう子はぎくりとした。

……バレたのだろうか……。

相づちすら打てず、黙って母親の言葉の続きを待つ。


しばしの沈黙のあと、母親が尋ねた。

「……二股でもかけられてたの?」


りう子は、脱力した。

二股どころじゃないだろう……。

今現在、雅人に何人の女がいるのかなんか、把握してない。

考えるだけ無駄だろう。


「そんなんちゃうわ。……彼は、悪くないから。」

りう子はそう言って、ため息をついた。

「そやったら、何で、挨拶に来いひんの!電話では、すぐ来るって言うたやないの。……あれから、もう3週間たつんよ?」

母親の言う通りだ。
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