何度でもあなたをつかまえる
「……妊娠、勘違いやったの。」
りう子は、なるべく平静にそう言った。
母親が、小さな声で言葉にならないうめき声を上げていた。
おそらく、雅人と同じで、前向きに受け入れようとしていただけに……ショックも大きいだろう。
受話器の向こうで、母親が父親に小声で報告している。
突然、ガザゴソと音がして、父親が電話に出た。
『もしもし?りう子か?……できてへんかったんか?ほんまか?』
「……うん。中絶手術したわけでも、流産したわけでもなく……最初から居なかったみたい。」
父親の声が明らかに弾んでいる。
……お父さんは、喜んでるんだ……。
微妙な気持ちになったりう子に、父親は言った。
『そうか。じゃあ、結婚もなかったことにしぃ。』
なかった……こと……?
それって……つまり……
「離婚?」
言葉にすると、ものすごく重かった……。
どうしてだろう。
「結婚」は拍子抜けするぐらい軽く感じたのに、「離婚」はこんなにも気が重くなるものなのか。
りう子は、父親の勧めに即答できなかった。
『……今後も仕事で関わる相手なんやったら、遺恨やら、変な情がわく前に、他人に戻ったほうがいいと思うで。……早よ別れてしまい。』
父親は重ねてそう言って、電話を切った。
お昼前に、茂木から電話がかかってきた。
『滝沢さん?尾崎がいないんだけど……ほっといて、俺と一条だけ、先に帰ってもいいよね?』
「……また?いつからいないの?夕べから?」
呆れてそう尋ねると、茂木は電話の向こうで、一条と話してから答えた。
『ホテルの部屋にも入ってないみたい。荷物、フロントに任せて、それっきり。』
りう子は、額に手を宛てがった。
……最初から使う気がないなら、そう言ってくれたら……独り分の宿泊費が浮いたのに……。
妻としての心配より、スタッフとしての気苦労が、そんなふうに思わせた。
本当なら、一言、文句を言うべきだろう。
でも、……嫉妬されてると……勘違いされるかもしれない……。
そう思うと、煩わしくなって、結局、りう子は放置した。
りう子は、なるべく平静にそう言った。
母親が、小さな声で言葉にならないうめき声を上げていた。
おそらく、雅人と同じで、前向きに受け入れようとしていただけに……ショックも大きいだろう。
受話器の向こうで、母親が父親に小声で報告している。
突然、ガザゴソと音がして、父親が電話に出た。
『もしもし?りう子か?……できてへんかったんか?ほんまか?』
「……うん。中絶手術したわけでも、流産したわけでもなく……最初から居なかったみたい。」
父親の声が明らかに弾んでいる。
……お父さんは、喜んでるんだ……。
微妙な気持ちになったりう子に、父親は言った。
『そうか。じゃあ、結婚もなかったことにしぃ。』
なかった……こと……?
それって……つまり……
「離婚?」
言葉にすると、ものすごく重かった……。
どうしてだろう。
「結婚」は拍子抜けするぐらい軽く感じたのに、「離婚」はこんなにも気が重くなるものなのか。
りう子は、父親の勧めに即答できなかった。
『……今後も仕事で関わる相手なんやったら、遺恨やら、変な情がわく前に、他人に戻ったほうがいいと思うで。……早よ別れてしまい。』
父親は重ねてそう言って、電話を切った。
お昼前に、茂木から電話がかかってきた。
『滝沢さん?尾崎がいないんだけど……ほっといて、俺と一条だけ、先に帰ってもいいよね?』
「……また?いつからいないの?夕べから?」
呆れてそう尋ねると、茂木は電話の向こうで、一条と話してから答えた。
『ホテルの部屋にも入ってないみたい。荷物、フロントに任せて、それっきり。』
りう子は、額に手を宛てがった。
……最初から使う気がないなら、そう言ってくれたら……独り分の宿泊費が浮いたのに……。
妻としての心配より、スタッフとしての気苦労が、そんなふうに思わせた。
本当なら、一言、文句を言うべきだろう。
でも、……嫉妬されてると……勘違いされるかもしれない……。
そう思うと、煩わしくなって、結局、りう子は放置した。